バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

そしてラングは偉大だった。カリガリから11年、”M”が描く恐怖の現実

f:id:bkkmind:20191215163849j:plain

 

フリッツ・ラングの傑作

”M"(1931年)

これまた古い映画ですけど、見どころ満載の1本ですね。

 

f:id:bkkmind:20191215164153j:plain

 

ストーリー自体はシンプルで、

連続少女誘拐事件の犯人が捕まるまでが描かれています。

 

f:id:bkkmind:20191215164334j:plain

f:id:bkkmind:20191215164401j:plain

 

で、ふと観返していて思ったのが

刑事たちが犯人を追い詰めていくシーンの数々が

のちの黒澤監督の”天国と地獄”によく似ているんですね。

どちらも題材が子供の誘拐ですし。

 

もっとも黒澤作品は”犯人憎し”の

勧善懲悪カラーですので

その点は本作品と異なりますけれど。

犯人の動機もその性質が違いますし。

 

f:id:bkkmind:20191215164857j:plain

 

犯人捕物帳としてみると

それほどのスリリングさは感じないようにも思います。

それこそ”天国と地獄”のほうがずっとスピーディーで見応えがありますから。

 

f:id:bkkmind:20191215165306j:plain

 

この映画の凄さ(恐ろしさ)は

犯人を追い詰めていくグループ(集団)が

警察以外にもう一つあって(マフィア)、そのどちらもが

それぞれの掟で、犯人を裁こうとするところなんですよね。

 

どちらも組織力があるわけです。

個人(犯人)はどうにも対抗できないわけです。

一旦捕まったら、あとはもう吊るしあげられるだけ。

実際、それぞれのグループに2度

裁判にかけられるシーンが描かれています。

 

f:id:bkkmind:20191215170153j:plain

 

これは(当時の)政治体制に対する完全なプロテストですね。

勿論、それは非常に”ヤバい”わけで

主人公を誘拐犯人~しかも子供の

という設定にしてカムフラージュしていますけれど。

 

f:id:bkkmind:20191215170439j:plain

 

一度、権力を持つ集団から目をつけられると

(この映画では、それが殺人者を表す”M"という刻印)

絶対に逃げることが出来ないという、

ラング自身が置かれていた当時の境遇を示していますし、

観客へのメッセージに繋がっています。

(最後のシーン、子供を奪われた母親の姿)

 

うーん、凄いものをまた観てしまいました。

 

www.youtube.com