フリッツ・ラングの傑作
”M"(1931年)
これまた古い映画ですけど、見どころ満載の1本ですね。
ストーリー自体はシンプルで、
連続少女誘拐事件の犯人が捕まるまでが描かれています。
で、ふと観返していて思ったのが
刑事たちが犯人を追い詰めていくシーンの数々が
のちの黒澤監督の”天国と地獄”によく似ているんですね。
どちらも題材が子供の誘拐ですし。
もっとも黒澤作品は”犯人憎し”の
勧善懲悪カラーですので
その点は本作品と異なりますけれど。
犯人の動機もその性質が違いますし。
犯人捕物帳としてみると
それほどのスリリングさは感じないようにも思います。
それこそ”天国と地獄”のほうがずっとスピーディーで見応えがありますから。
この映画の凄さ(恐ろしさ)は
犯人を追い詰めていくグループ(集団)が
警察以外にもう一つあって(マフィア)、そのどちらもが
それぞれの掟で、犯人を裁こうとするところなんですよね。
どちらも組織力があるわけです。
個人(犯人)はどうにも対抗できないわけです。
一旦捕まったら、あとはもう吊るしあげられるだけ。
実際、それぞれのグループに2度
裁判にかけられるシーンが描かれています。
これは(当時の)政治体制に対する完全なプロテストですね。
勿論、それは非常に”ヤバい”わけで
主人公を誘拐犯人~しかも子供の
という設定にしてカムフラージュしていますけれど。
一度、権力を持つ集団から目をつけられると
(この映画では、それが殺人者を表す”M"という刻印)
絶対に逃げることが出来ないという、
ラング自身が置かれていた当時の境遇を示していますし、
観客へのメッセージに繋がっています。
(最後のシーン、子供を奪われた母親の姿)
うーん、凄いものをまた観てしまいました。