これは非常に”沈んだ”映画ですね。
ほのぼの~日本情緒的なイメージをもって観てしまうと
大きく期待を裏切られることになりそうです。
小津の戦後の作品のなかでも
異常なほどダークかつ
描き方がストレートに”意地悪”です。
主役の有馬稲子は後年のインタビューで
「もう暗い役でね。<中略> やっているあいだも、
なんか憂鬱になりましたよ、ほんと」
(「君美わしく」川本三郎著)
と語っています。
ピリピリしています。
有馬稲子はだらしのない男(田浦正巳)に
妊娠させられ、中絶
挙句の果てに悲劇的な最期を迎えてしまうのですが
(堕胎のために訪れた)病院のシーンの次に
元気のよい原の子供のショットを持ってきたりしてます。
いつもならコメディーリリーフとして笑いを誘う
役者陣も、この作品ではひどく冷笑的かつ虚無的です。
常連組のなかでは杉村春子だけが
お馴染みの”ほがらか~能天気~おせっかい”おばさんを
演じていますが、あまりに他の登場人物が暗い設定なので
ちょっと浮き上がった感じもありますね。
屋外シーンも夕暮れ~夜間の時間帯が多く
エンディングに至るまで
重く垂れこめた雨雲のような圧迫感が画面を支配する
2時間20分(1957年製作)であります。