バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

無駄なカットが一切無し、これぞ匠の技~溝口健二監督の「近松物語」

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映画を観ていると

時々(しばしば)、ありません?

”なんかかったるい場面が続くなあ”

”このシーン、別に必要ないんじゃないかな”

とか。

 

監督や脚本家には思い入れとか必然性があるんでしょうけれどね。

 

その意味で言うと、この作品(1954年)は

完全無欠の1本。

溝口監督は既に”西鶴一代女” ”雨月物語” ”山椒大夫”を製作しており

まさに世界的な名声を得ていたわけですが。

 

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いわゆる男女の不義~密通物語、逃避行の様子が描かれています。

主演は長谷川一夫香川京子

余裕の長谷川に全身全霊の演技でぶつかる香川、

脇を固める進藤英太郎、小沢栄、浪花千栄子田中春男

芸達者ぶり。

 

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全編通して、流れるような場面転換

過不足一切無し。

 

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溝口監督といえば、長きにわたって主役の座は

田中絹代と決まっていたわけですが

新藤兼人監督の著作「小説 田中絹代」のなかに

こんな一節があります。

 

”(田中絹代)は映画館へこれ(近松物語)を見に行き、はいる時は対抗意識を燃やしてはいったが、出るときは、血の気のない顔をしていた。溝口健二の演出力に圧倒されたのである。香川京子にはげしい嫉妬をおぼえた。おさん(主役の名前)をやれたらという望めない渇望である。年をとりすぎたのが口惜しい。”

 

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この年、田中絹代は44歳になっていました。

若妻の役はもう出来ません。

(ちなみに香川京子は若干22歳になったばかり)

 

田中絹代がうらやむほどの演技を見せた香川京子には

脚本を書いた依田義賢

 

”他に例がないほどにわたしは思っている”

(「君美しく」/川本三郎

 

と絶賛の声を寄せたのでした。

 

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