映画を観ていると
時々(しばしば)、ありません?
”なんかかったるい場面が続くなあ”
”このシーン、別に必要ないんじゃないかな”
とか。
監督や脚本家には思い入れとか必然性があるんでしょうけれどね。
その意味で言うと、この作品(1954年)は
完全無欠の1本。
溝口監督は既に”西鶴一代女” ”雨月物語” ”山椒大夫”を製作しており
まさに世界的な名声を得ていたわけですが。
いわゆる男女の不義~密通物語、逃避行の様子が描かれています。
余裕の長谷川に全身全霊の演技でぶつかる香川、
芸達者ぶり。
全編通して、流れるような場面転換
過不足一切無し。
溝口監督といえば、長きにわたって主役の座は
田中絹代と決まっていたわけですが
こんな一節があります。
”(田中絹代)は映画館へこれ(近松物語)を見に行き、はいる時は対抗意識を燃やしてはいったが、出るときは、血の気のない顔をしていた。溝口健二の演出力に圧倒されたのである。香川京子にはげしい嫉妬をおぼえた。おさん(主役の名前)をやれたらという望めない渇望である。年をとりすぎたのが口惜しい。”
この年、田中絹代は44歳になっていました。
若妻の役はもう出来ません。
(ちなみに香川京子は若干22歳になったばかり)
脚本を書いた依田義賢が
”他に例がないほどにわたしは思っている”
(「君美しく」/川本三郎)
と絶賛の声を寄せたのでした。