小津監督には”東京”の2文字が入る作品がかなりあります。
東京の合唱 1931年
東京の女 1933年
東京物語 1953年
東京暮色 1957年
そして1935年の「東京の宿」
主演は坂本武に岡田嘉子
岡田は30代前半ですが、落ち着いた美しさに気品が感じられます。
映画前半の舞台となる
当時の東京下町の工場地帯(無人の道路、巨大な建築物)が強い印象を残します。
まるで、荒野の西部劇か別の惑星を描いているSF映画のよう。
坂本と岡田はともに幼子を連れながら
職探しに懸命の日々。
子供たちを交えての心休まる交流も生まれます。
坂本がふと入った小料理屋で仲居~酌婦をしている
岡田を見つけます。
”お前さん、なんだってこんなことを”
”子供が急病になって、どうしても医者に診せるお金が必要なんです”
と泣き崩れる岡田。
坂本の暮らしぶりも苦しく、助ける余裕はありません。
考えた末、坂本はある決心をします。
その決心とは・・・
フィルムが現存する小津作品のなかでは
取り上げられることが少ないようですが、私は好きですねえ。
ちなみに岡田は1938年年明けに
ソ連へ亡命します。
日本帰国が1972年、
再びソ連へ戻るまでの約15年間に
幾つかの映画に出演しています。
1976年制作のお馴染みの”男はつらいよ”(第17作)でも
その姿を見ることができます。
この回のマドンナは太地喜和子、
歯切れのいいテンポの演技で
渥美清も楽し気に芝居をしています。
シリーズ屈指の一本であります。