世界の小津監督の特徴といえば
ローアングル、ローポジションのカメラ位置。
実際に映画を観てない人まで
その事実を知っているという、ある種珍現象。
1956年製作の”早春”
確かにカメラ目線が低いですね。
立ち上がる二人、
カメラは床すれすれの位置でしょうか。
お尻が見上げるような高さになっています。
さて、後年
小津監督が亡くなって
随分経ってからの淡島千景のインタビュー
”あたし、太ってますからね、大きなお尻で、まして洋服でスカートだから後ろから撮られるのが嫌で嫌でしょうがないんだけど、先生はカチーッとこうやってお撮りになるでしょう。これなんとかならないかと・・・”
「君美わしく/川本三郎」(文集文庫)
確かに女優さんとしてはもっともな気持ちでしょうね。
今から六十数年前のことですし。
旦那さん役の池部良とのシーンでもやはり・・・
さて、後ろ姿ではなく
別の角度を撮られるのが困った人も居たようです。
大御所の田中絹代、戦後まもなくの
”風の中の牝どり”(1948年)のシーンですが、
”・・・絹代にカメラが向くたびに、監督がカメラアングルに腐心しているのが気になった。<中略>アゴの下に脂肪がたまって、たるみがでてきたのだ。ローアングルで仰ぐとまるきりたるみを写すことになる。横顔はなおいけない、たるみがまる見えだ。しぜん正面のアングルが多くなる・・・”
確かにあごの下、を含めて身体つきが
それ以前よりふっくらとしている印象を受けます。
この時の年齢は38歳、お嬢様や若奥様では
いつまでも続けられないという
微妙な時だったのかもしれませんね。
時は流れて10年後、1958年の ”彼岸花” では
夫や子供たちの諍いをうまく鎮める
思慮深いお母さん役を
貫禄の演技でこなしています。
もう、横顔も後ろからのショットも
解禁のようですね、
目出度し目出度し、
お後が宜しいようで。