バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

孤高の俳優 渥美清と漂泊の俳人 尾崎放哉

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40数作も作られた「男はつらいよ」で

あまりにも有名な国民的俳優、渥美清

映画で見せる庶民的な役柄とは裏腹に

私生活では徹底的な個人主義者だったことも

よく知られています。

 

親しい役者仲間にも住所や電話番号を知らせない。

映画の試写会や舞台を見に行く際にも

終了間際にサッと姿を消す

などのエピソードが多くの書籍で語られています。

 

渥美清と生前、交流のあった

小林信彦の「おかしな男 渥美清」(新潮文庫)に

こんな一節が。

 

”板橋のほうの職安の脇のどぶに頭を突っ込んで死んでいる男がいる。失業者たちが、これは随分前にテレビに出ていた渥美とかなんとかいうやつじゃないかって言っている。おれはきっとそういう死に方をする”

 

www.youtube.com

 

結局は実現しませんでしたが、41歳で亡くなった

明治の俳人、尾崎放哉のドラマ化が

渥美清主演で進められていたことがあります。

 

尾崎は東大法学部卒のエリートでしたが

周囲の人間関係がうまく結べず

各地の寺を転々とし、病に倒れ

香川県で亡くなります。

 

吉村昭の「海も暮れきる」(講談社文庫)には

晩年の尾崎の焦燥と絶望の日々が克明に描かれているのですが

その死に際は渥美清の死生観に

どこか繋がる部分があるように思えます。

 

中学時代から句を詠み始めていた尾崎ですが

幾つか印象に残るものを。

 

何も忘れた気で夏帽をかぶって

 

うそをついたやうな昼の月がある

 

肉がやせてくる太い骨である

 

うつろの心に眼が二つあいてゐる

 

墓の裏に廻る

 

尾崎放哉(おさき ほうさい) - 鳥取県立図書館

 

 

小林信彦の別著、「日本の喜劇人」(新潮文庫)には

こんな記載もあります。

 

渥美清は、まず、大学を出た人間を演じられない。さらに現代的な知的悪役ができない”

 

確かに「男はつらいよ」以外の出演作

~映画でもテレビドラマでもそうですが~

でも、おっちょこちょい(&おせっかい)で気が短いが根は善人という

役柄が多かったように思います。

 

寅さん、ではなくて

渥美清の演じる放哉像とは

どんな人物になっていたでしょう。

是非、観てみたかった気がしますね。