バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

いきなり、英語を流暢に話す高峰秀子が登場する "朝の波紋"(1952年)

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戦後まもない時期の高峰秀子主演の映画。

共演に池部良岡田英次三宅邦子上原謙香川京子

とかなり豪華な顔ぶれですが、

チラリと顔を見せるだけのゲスト的な出演者も多く

オールスター映画といった華やかさはありません。

 

ちょっとびっくりするのは冒頭部分から

高峰秀子がペラペラと英語を話していること。

貿易会社に勤める才媛という設定です。

 

ちなみにこの作品を撮る前に、高峰は半年間のパリ生活を経験していて

自著 ”わたしの渡世日記”(文春文庫)には

当時の心中の葛藤や過酷な撮影状況が記されています。

 

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さてこの作品、ストーリーはいたって単純

高峰を巡って

同僚の岡田とライバル会社勤務の池部が争います。

 

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会社の扱う商材がストレプトマイシン結核の特効薬)だったり、

高峰の役柄が戦争未亡人(出征した婚約者が戦死)になっているなど

当時の日本が、戦後の混乱から脱し切れていない状況が伺えます。

 

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さて映画の出来はどうかというと、正直

同時期の黒澤、小津、溝口、成瀬監督作に比べると

弱いかなと。

演技(演出)が生硬に感じられる場面が多く

またオーケストラによる伴奏が終始かぶっていて

ちょっと煩いような。

 

しかしラストのシーンは素敵です。

高峰に結婚を申し込むのは岡田が先なのですが

池部が遠慮がちに自分の心情を吐露します。

 

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やり手の岡田に対して、池部はどこか浮世離れして

掴みどころがないのですが

高峰はその内面に秘められた優しい性格に気付いています。

 

大胆な行動が取れない池部らしい

ディスタンスを取った愛の告白。

(岡田のほうは結婚を迫り、いきなり高峰を抱きしめたりします)

 

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監督は戦前から多くの作品を手掛けたベテランの

五所平之助

庶民の生活をテーマにした

ハートウォーミングな内容が多い人ですね。

 

余談ですが、同監督の ”恐山の女”(1965年)は凄いですよ。

タイトルからして尋常ではないムードが漂っていますが

これは真のカルト映画ですよ。

別にホラーとか心霊系ではなく、途中までは普通のドラマなのですが

エンディングに ”うわー、どうしたんだ”

という展開が待ち受けています。

私は観ていて、唖然としました。

 

主演は吉村実子(石立鉄男の奥さんだった方、芳村真理の妹)、

うわー!の場面に登場するのは東野英治郎(ご存じ水戸黄門

です。

 

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そして驚くのが、この映画がキネマ旬報誌で

高評価を受けていたという事実(1965年度第七位)

 

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いやー、衝撃的です。

またまた

うわー、であります・・・