バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

「体力の限界」は映画にもある~三船敏郎最後の黒澤映画出演作 ”赤ひげ”

f:id:bkkmind:20210217121152j:plain

 

黒澤明監督の1965年作品  ”赤ひげ”

キネマ旬報誌で堂々の第一位にランクされています。

 

f:id:bkkmind:20210217121503j:plain

 

この映画を観て感じたこと、

 

それは "老い” です。

 

当時黒澤監督は55歳、まだ老け込むような年齢ではないわけですが

画面からはそれ以前の作品にあった

圧倒的な熱気、ダイナミズムが消えています。

 

この作品は幾つかのエピソードを繋げて構成されているのですが

(それぞれに見せ場はあるのですけれど)

2時間あるいはそれ以上をもたせる持続力や集中力に

翳りが出ているような気がするのですね。

 

www.youtube.com

 

この作品以降、製作条件の悪化などもあって

それまでほぼ毎年新作が公開されていた黒澤映画は

5年間といったかなり長いインターバルを置いて

発表されるようになります。

 

1970年の ”どですかでん

も同じくオムニバス作品

 

1975年の ”デルス・ウザーラ” は

人間ではなく雄大な自然に焦点を当てています。

 

”パパはあの(デルス・ウザーラ製作時)前後は、腎臓が両方とも悪かったのよ。だからネバレなかったの”

(黒澤監督の長女、黒澤和子の発言  「黒澤明という時代」/小林信彦より)

 

しかしこの作品はアカデミー賞を受賞し、世界のクロサワとして

注目が高まっていきます。

 

www.youtube.com

 

1980年の ”影武者”、1985年の ”乱” は

コッポラやジョージ・ルーカスのバックアップを得たり、

世界各国で大々的にプロモーションも展開された大作。

 

海外での知名度という点ではこの2本が圧倒的でしょう。

それに比して日本では厳しい評価を下す人も多く、

映画評論家や、かつて黒澤監督と共に仕事をした脚本家からの

コメントは辛口のものが目立ちました。

 

1990年の ”夢” は8話からなる

これまたオムニバス構成。

 

その後の2作品もプライベート映画といってよい小品です。

 

スポーツの世界では

引退あるいは第一線を退く際に

体力(&気力)の限界という表現を使いますよね。

 

考えてみると身心の衰えというのは誰にでもあって

それには抗えないわけです。

というか、パワーが落ちていくのが自然で当たり前。

 

競技の世界では数字(タイムや得点、勝敗など)に

それが明確に示されますが

映画や文学、音楽などアートのジャンルでも

同じだと思うんですね。

 

観れば、読めば、聞けば

「試合結果」はすぐに分かりますので。

 

ごく私見ですけれど

パワー全開!でいけるのは

50代がリミットではないでしょうかね、

芸術全般において。

(役者さんの老け役とかは別ですが)

 

その後については

枯れ具合を愛でる、という接し方かな。

 

ちなみに黒澤作品のマイベストは

蜘蛛巣城”(1957年)

なんたるテンションの高さ!

 

この時、監督の御年は47歳

三船は37歳です。

 

www.youtube.com