黒澤明監督の1965年作品 ”赤ひげ”
キネマ旬報誌で堂々の第一位にランクされています。
この映画を観て感じたこと、
それは "老い” です。
当時黒澤監督は55歳、まだ老け込むような年齢ではないわけですが
画面からはそれ以前の作品にあった
圧倒的な熱気、ダイナミズムが消えています。
この作品は幾つかのエピソードを繋げて構成されているのですが
(それぞれに見せ場はあるのですけれど)
2時間あるいはそれ以上をもたせる持続力や集中力に
翳りが出ているような気がするのですね。
この作品以降、製作条件の悪化などもあって
それまでほぼ毎年新作が公開されていた黒澤映画は
5年間といったかなり長いインターバルを置いて
発表されるようになります。
1970年の ”どですかでん”
も同じくオムニバス作品
1975年の ”デルス・ウザーラ” は
人間ではなく雄大な自然に焦点を当てています。
”パパはあの(デルス・ウザーラ製作時)前後は、腎臓が両方とも悪かったのよ。だからネバレなかったの”
(黒澤監督の長女、黒澤和子の発言 「黒澤明という時代」/小林信彦より)
しかしこの作品はアカデミー賞を受賞し、世界のクロサワとして
注目が高まっていきます。
1980年の ”影武者”、1985年の ”乱” は
コッポラやジョージ・ルーカスのバックアップを得たり、
世界各国で大々的にプロモーションも展開された大作。
海外での知名度という点ではこの2本が圧倒的でしょう。
それに比して日本では厳しい評価を下す人も多く、
映画評論家や、かつて黒澤監督と共に仕事をした脚本家からの
コメントは辛口のものが目立ちました。
1990年の ”夢” は8話からなる
これまたオムニバス構成。
その後の2作品もプライベート映画といってよい小品です。
スポーツの世界では
引退あるいは第一線を退く際に
体力(&気力)の限界という表現を使いますよね。
考えてみると身心の衰えというのは誰にでもあって
それには抗えないわけです。
というか、パワーが落ちていくのが自然で当たり前。
競技の世界では数字(タイムや得点、勝敗など)に
それが明確に示されますが
映画や文学、音楽などアートのジャンルでも
同じだと思うんですね。
観れば、読めば、聞けば
「試合結果」はすぐに分かりますので。
ごく私見ですけれど
パワー全開!でいけるのは
50代がリミットではないでしょうかね、
芸術全般において。
(役者さんの老け役とかは別ですが)
その後については
枯れ具合を愛でる、という接し方かな。
ちなみに黒澤作品のマイベストは
”蜘蛛巣城”(1957年)
なんたるテンションの高さ!
この時、監督の御年は47歳
三船は37歳です。