バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

成瀬巳喜男はやはり凄かった~あまりの映像センスに脱帽 ”まごころ”

f:id:bkkmind:20210906135745j:plain

 

成瀬巳喜男の戦前の小品 ”まごころ”

全編で1時間ちょいの長さです。

 

小学校に通う信子と富子は、大の仲良し。

冒頭のシーン、途中まで一緒に下校

それぞれの家へ帰ってゆくのですが

 

f:id:bkkmind:20210906140143j:plain

f:id:bkkmind:20210906140347j:plain

 

成瀬作品の特徴である

微笑み返しならぬ視線返しが炸裂。

富子の家から信子の家への切り替えショットで

眼のポジションを揃えるという。

 

信子は

かつて自分の父親と富子の母親が

恋仲だったという話を耳にしてしまいます。

 

f:id:bkkmind:20210906141021j:plain

 

翌日、校庭の草むしりの時間に

なんとか富子に近づこうとする信子。

(立ち上がると教師に怒られてしまうので)

草を取るふりをしつつ、富子に接近。

 

f:id:bkkmind:20210906141247j:plain

 

二人きりになった後、

信子は富子へ

「あなたのお母さんと私のお父さんは昔・・・」

と伝えます。

 

f:id:bkkmind:20210906141433j:plain

f:id:bkkmind:20210906141457j:plain

f:id:bkkmind:20210906141519j:plain

f:id:bkkmind:20210906141550j:plain


ここはですね、驚異の名場面です。

話の中身が中身だけに

どちらにも葛藤やショックがあるわけです。

それを二人の距離感(近づいたり離れたり)と

姿勢(立つ、座る)や向きの違い(横すわり、椅子にまたがる)

の変化によって表現しています。

 

このシークエンスは

ヒッチコックワイルダー、黒澤、小津監督もひたすら平伏ですよ。

何気ないシーンなんですけど

あらゆる映画表現の最高峰、

まさに成瀬巳喜男の真骨頂であります。

 

f:id:bkkmind:20210906142410j:plain

 

家へ帰った富子、

団扇をあおぎながら

お母さんを疑いの目で見つめます。

おー、なんという映像美。

 

f:id:bkkmind:20210906142812j:plain

 

水着に着替えて近くの河原へ。

川の水で涙を拭います。

 

f:id:bkkmind:20210906142733j:plain

f:id:bkkmind:20210906142953j:plain

 

しかし、沈んでいく心を止めようがありません。

(この後、河原に突っ伏してしまう)

 

f:id:bkkmind:20210906143118j:plain

 

そこに信子、

信子の父、富子の母親がやってきます。

表情が固くなる富子ですが

懸命に心の整理をつけようとします。

 

f:id:bkkmind:20210906143320j:plain

 

河原で怪我をした信子はお父さんに

おんぶしてもらって家路へ。

 

お父さんの耳を引っ張って

「さよならを言わないとダメでしょ」

と優しくささやきます。

 

f:id:bkkmind:20210906143604j:plain

f:id:bkkmind:20210906143626j:plain

 

信子たちが帰った後

富子もお母さんにおんぶをせがみます。

そして同じように耳を引っ張って

後ろを振り返させます。

 

「おやおや、そんなことをしてもどこにも誰も居ませんよ」

「お母さんもさよならを言わなきゃ」

 

またまた超絶の名場面で

子供たちは親の過去を受け入れたわけです。

(子供たちの想像と実際は違っていたのですけれど)

それを責めたりはしない。

でもこれからは、私のお父さん、お母さんで

ずっといてね

というお願いをしてるわけですね。

 

f:id:bkkmind:20210906144405j:plain

f:id:bkkmind:20210906144444j:plain

 

撮影当時(1939年)は既に戦時色が強い頃で

この映画も戦意高揚のシーンがかなり盛り込まれています。

そういったパートは今観ると、時代を感じますし

違和感を覚えるセリフ(大人たちが交わす)も少なからず。

 

上映時間も短く内容も地味、大スター大挙出演というわけでもないので

およそ日本映画のベストものなどには登場しません。

成瀬監督の残した作品としても

ほとんどスポットが当たることはありませんけれど

幾つかのシーンは、本当に映画の宝物だと思いますね。

 

映画好きの方なら

死ぬまでには、是非一度は!