バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

淡々とした描写にこそ怒りと哀しみのメッセージが~新藤監督の ”原爆の子”

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新藤兼人監督の ”原爆の子”(1952年)

広島の原爆投下~被爆を扱った映画のなかでも

初期に製作された一本。

 

実はこの作品、製作の段階で

多くの困難にぶつかりました。

 

ひとつは内容面、

新藤監督の脚本について

”原爆の恐ろしさを伝えきれていない”

という関係者の批判。

(結果、別監督による映画も製作されています)

 

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確かにメインのパートは

”その後の広島”

乙羽信子扮する教師がかっての生家や知人、教え子を訪ねる)

に置かれていて、1945年当時の描写は短めです。

 

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戦争の傷跡はなお深いのですが

むしろ描き方としては控え目、

乙羽も感情的な行動に走ることなく

終始沈着です。

 

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おそらく新藤監督は

”史実面の描写が少ない”

という批判が起こるだろうことを想定したうえで

ドキュメンタリー的な方向は避けたのでしょう。

 

そうすることにより、原爆の恐怖~それは今も終わっていない

というメッセージがより伝わりやすいはずだという

判断があったように思います。

 

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(撮影時、平和記念資料館は建設中)

 

また資金面での苦労

(潤沢な予算が獲得できなかった)

については、監督の自著 ”愛妻記"

に触れられています。

 

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重いテーマであるからこそ

ひとつひとつの場面を丁寧に撮る

という意識がいつも以上に

徹底されていますね。

 

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そうそう、ひとつ気になったのは

冒頭部分で乙羽が自転車に乗っているシーンが

あるのですが、これ

かなり危ないんですよ。

柵などないですからちょっと間違えば

崖から海にドボーンです。

代役とかでなくご本人だと思うのですが

乙羽さん、怖くなかったのでしょうか、

スピードも結構出てますし・・・

 

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映画のラストは

飛行機の爆音で

思わず空を見上げる乙羽と

かつての同僚。

 

当時の記憶と未来への不安が

交錯しています。

 

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新藤&乙羽の名コンビは

この後、乙羽の演技力の限界に挑むような

重量級の作品群を多数、産み出していくわけですが

静的な落ち着きに満ちた本作、

私的ベストの新藤映画であります。

 

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