今から10数年前、
バンコクで日本映画上映のイベントがあったんですね。
全体的に生真面目文芸路線のラインアップ。
ちょっと異色なセレクションだったのが
川島雄三監督の ”貸間あり” (1959年)でした。
大阪の屋敷に間借りしている住人たちが
繰り広げるドタバタ群像喜劇です。
主演はフランキー堺、
作家兼よろずなんでも引き受け屋
という役どころです。
フランキーが先に動き回って
騒動を起こすのではなく
一癖も二癖もある周囲の住人たちに
翻弄されていくというストーリー。
(フランキーは頭脳明晰&至極真面目なキャラクターになっています)
フランキーに好意を寄せる
陶芸作家に淡島千景。
着物姿ではなく
カジュアルな洋装シーンが多いので
軽快なイメージです。
で、同居人の顔ぶれが強烈
乙羽信子、浪花千栄子、清川虹子、桂小金治、山茶花九、藤木悠、益田キートン、沢村いき雄、市原悦子、渡辺篤・・・住人ではありませんが小沢昭一
この映画は
一人あるいは二人のクローズアップのシーンよりも
人数の多いカットが非常に多いんですね。
手前で会話をしていると
奥のほうから割り込んでくる、
勝手に喧嘩を始める、
出たり入ったりする、
と実に落ち着きがない映画。
コメディとしては1時間52分という
かなりの長さなのですが
ゆったり&しみじみというパートがなく、
登場人物たちは終始
ハイパーテンションで
誰かが転んだり、つまずいたり、どつかれたりしています。
(各自があちこちで、てんでばらばらに細かい芝居)
お涙頂戴のハートウォーミング路線とは真逆、
(心温まるエピーソド的なものは登場せず)
ドライ&シニカルに徹した
川島監督の一大傑作です。
(フランキーと淡島はエンディングには登場せず、この辺りの「消し方」が上手いですね)
名作の誉れ高い、2年前の ”幕末太陽伝” に比べると
あまり話題になることはありませんが
機会がありましたら、ご覧くださいまし。
若き日のフランキーの身体のキレ、滑舌の良さを
観るだけでも価値がありますよ。