ジョゼフ・ロージー監督の ”M” (1951年)
映画史に燦然と輝くフリッツ・ラングの名作(1931年)の
リメイク。
となると、コケてしまうのでは?と思ったりもするのですが
さすがロージー、二番煎じと言われないように工夫を凝らしています。
ラング版は戦前のベルリンが舞台ということで
重厚な雰囲気に満ちていましたが
こちらは陽光輝くロスアンジェルスでロケーション。
見下ろして
見上げる
ダイナミックなカメラワークが最高です。
構図がひたすら、ピタッと決まりまくり。
パーツに別れたマネキン人形に
犯人の歪んだ心理状態が投影されています。
演じるデイヴィッド・ウェインは
オリジナル版のピーター・ローレのような強烈な存在感はありませんが
一見平凡な一市民に見えて、その内面は・・・
という難しい役柄を好演しています。
「これが俺の撮り方なのさ」
という監督の自信が伝わる佳作であります。
A Scene From "M" (1951)
さて、ちょっと珍しい
こちらはアルゼンチン版の” M”
”El vampiro negro”
というタイトルですが、さしずめ
黒い殺人鬼、といったニュアンスでしょうか。
主演は Roberto Escalada という
アルゼンチンではよく知られた俳優さんですが
病的なまでに小心な中年男という
犯人像をうまくこなしています。
こちらの作品はラング版をかなり改変しており
主人公は社会から孤立した存在ではなく
周囲との人間関係も一応、結べています。
(ギクシャクですが)
その意味では日常のドラマ性があるので
全体として落ち着きのある仕上がりになっていますね。
興味深いのは50年代前半の
ブエノスアイレスの街並みが見れることでしょうか。
ロージー作品のような躍動感、モダンな感覚はありませんが
しっかり丁寧に作られていて
ところどころに、ラングのオリジナル版に敬意を払ったであろう
ショットが挟み込まれています。
意外な(といっては失礼ですが)拾い物ですよ。
機会がありましたら、どうぞ
ベルリン~LA~ブエノスアイレスの
「映像三都市巡り」をお楽しみくださいませ。
(犯罪映画なので、明るくはないですけれど)