バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

岩が隔てるあの世とこの世~オーストラリア映画 ”ピクニックatハンギング・ロック”

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ピーター・ウィアー監督の

”Picnic At Hanging Rock”(1975年)

 

これは非常に独特のタッチがある作品で

謎めいたストーリーと共に

映画ファンの格好の議論&研究対象になっていますね。

 

全寮制の女学校(時代設定は1900年)が舞台になっていて

うら若き少女が多数出演。

 

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なかでもミランダ(アン・ランバート)は

学校の教師や生徒たちも認める完璧美人。

前半で消えてしまうのですが・・・

 

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ある日、学校の生徒たち(全員ではありません)と

付き添いの教師はハンギング・ロックと呼ばれる岩山へピクニックに。

途中からミランダ含む数人の様子がおかしくなり、

フラフラと岩山の奥に消えていってしまいます。

 

女性校長(レイチェル・ロバーツ)以下、

学校関係者はパニック状態。

町の住人達も捜索に乗り出すのですが、手掛かり無し。

 

一週間後、一人だけ気を失った状態の生徒が発見されます。

しかし当時の記憶を完全に喪失。

結局ミランダ含む残りの生徒達は死亡したのだろうということに。

 

一方学校では別の事件が発生。

ミランダを慕っていた生徒のセイラ(ピクニックには参加せず)が

寮から飛び降りて自殺してしまいます。

 

学校の悪評はどんどんと拡がっていき、

学校を去る教師や生徒が続出。

校長のイライラは募るばかりで

酒が手放せなくなります。

 

・・・

 

で、終わりなんですね。

 

えっ?

遭難事故の真相については全く触れずじまい。

超歯切れの悪い結末なのですが

実は、劇場公開版ではカットされていたエンディングのシーンがあるのですね。

ちょっと観てみましょう。

 

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一連の事件後、校長は喪服姿で一人

岩山へ向かいます。

 

と、岩の上から人影が。

 

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それは自殺をしたセイラでした。

 

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茫然と、しかしそうなることを予期していたかのような表情の校長。

この後、誘われるように岩山の奥へ入っていきます。

 

数日後、校長の遺体が発見されたのでした・・・

 

このシーンがあると明快になりますね。

全体の流れが。

 

(以下、私的解釈ですが)

岩山の向こうは別の世界なんですね。

入れる人と入れない人が居るんです。

ミランダが誘い手です。列の先頭に居ましたし、セイラを導いたのもミランダ)

 

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岩山の奥に消えて行ってしまう生徒たちはその前に

靴下を脱いでいます。

しかし、入らない(興味を示さない)生徒は靴下姿のままです(左奥上)

 

また、セイラが飛び降りた場所は植物室なのですが

オジギソウがクローズアップされるカットが挟み込まれています。

 

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指を触れると葉が閉じます。

これは岩山のメタファー(隠喩)になっています。

 

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ピクニックの当日、出かけるアマンダを屋上から見送るセイラ。

校長を岩山から見下ろす構図と同じです。

 

校長は映画のなかで、かなり俗悪な人物として描かれていて

(セイラに対して特に厳しく接する)

そういう人物は岩の奥の世界には入れないんですね。

例え入っても、命を奪われてしまう。

(一人助かった生徒は命には別条なし。まだ来るのは早いということでしょう)

 

その他、様々な絵画やオーストラリアに固有な動物などが登場。

それらにも隠喩が秘められています。

しかし基本は、「こっちの世界とあっちの世界」の境界を

描いた作品だと思いますよ。

 

Picnic At Hanging Rock   Trailer

www.youtube.com

 

学校の女生徒たちが気になって仕方がない

二人の年頃の少年のシーンなど、

ちょっと冗長な部分もありますが

(救出された女の子の発見者。岩山の奥は男子禁制であることが分かります)

ハマる方はどっぷりハマる116分であります。

 

直接的な繋がりは無いのですが

同じくオーストラリアを舞台にした

貴志祐介の ”クリムゾンの迷宮” は

本作にインスパイアされた箇所があるかなと。

(特に結末、V字谷からの脱出シーン)

 

こちらはサイバー&サバイバル小説として

出色の小説です。

やはりハマる人はハマりますよ。

 

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クリムゾンの迷宮/貴志祐介著(角川ホラー文庫