昭和の時代の大スター
(加山雄三のお父さん)
生前の著作 ”がんばってます” には
共演した数多くの女優のエピソードが書かれているのですが
ちょっと驚くのは、”愛染かつら”などで圧倒的人気のあった
田中絹代について、ボロクソに述べている箇所があるところです。
”私は田中絹代さんを好きになれなかった”
”こちらがすすんで話をもちかけても彼女の反応はつまらないし、彼女自身の話も、私には面白いとは思えなかった”
”彼女と芝居をやっているときも、ちっともうまいとは感じない”
”長いセリフになると、まともに喋れなくなってしまう。彼女の舌っ足らずの物言いに私は辟易した”
他の女優さんについては概ね、ロマンスなども絡めて
愛情豊かに記述しているので
その落差にびっくり。
よっぽど相性が悪かったのでしょうね。
確かに見た目的にも
絹代は決して目立つような美しさが無く
小柄かつスタイルもよろしくはありません。
”非常線の女”
”還ってきた男”
ですんで洋服姿が似合わないし
他の女優さんのほうが上背があるんですね。
ハリウッド映画に出ても違和感が無さそうな水久保澄子
小顔&モデルのような体形の高杉早苗
華やかな魅力に溢れた女優さんは他にいくらでも居るわけで。
しかし絹代には着物姿という圧倒的な武器があったのでした。
”銀座化粧”
和服には絹代の持つ欠点をすべて長所に変える
魔法の効果があったわけです。
着物は八頭身美人よりも、ずん胴タイプにこそ
おあつらえですし。
洋装で動きの激しい場面では
絹代の滑舌の悪さが目立ってしまうのですが、
着物でならその心配も無し。
かくして、若さの峠を越えた戦後にも
小津や成瀬作品で
いぶし銀の魅力を発揮することが出来たのでした。
”おかあさん”
上原謙も
”不思議なことに、芝居では決してうまいと思えなくても、出来上がったのを見ると彼女は実にうまい。これにはびっくりした”
と絹代の女優としての魅力を見直しています。
昭和の時代だからこそ生まれた
昭和の時代だからこそ愛された
そして昭和の時代に紛れもなく必要だった
国民的スター、とでも形容したら
少しはあたっているでしょうか・・・