バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

ジャパンホラー/サスペンス映画の金字塔 ”CURE” を珍しく「深観」してみる

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黒沢清監督の1997年度作品。

そのミステリアス&スタイリッシュな構成で

国内外から非常に評価の高い力作ですね。

善人VS悪人、結局最後はハッピーエンドといった

ありきたりの作りになっていませんので

映画ファン、マニアからは格好の謎解き対象になっているようです。

 

私は2回観てみました。

で、それでも100%スッキリ分かりました!

なんてことはないのですが、ちょっと気づいたこと、感じたことを。

定説、一般的な解釈とは異なっているかもしれませんが

どうぞその辺はご容赦を。

(監督自身によるノベライズもあるようですね。すいません、そちらは未読です)

 

この作品、事実~実際に起きたことと

登場人物の幻想、願望、悪夢の両方が混在してますよね。

また、事実にしても空想にしても

誰から見た事実なのか、誰の心象風景なのか

と言うポイントもあるかと。

 

間宮(萩原聖人)VS 高部(役所広司)という捉え方よりも

間宮をMC~狂言回しの立ち位置に置いてみると

掴みやすいかなあ、という気がしましたよ。

 

さて冒頭、役所の奥さん(中川安奈)の

カウンセリングの場面ですが、

 

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うん?、医者の距離がおかしくありませんか。

コロナ以前のお話ですし。

(初診ではなく既にセッションを重ねていて、二人の会話自体は寛いだ調子)

 

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この後、テーブルが突然ガタガタと揺れ始めます。

いわゆる念動力というか、ともかく超能力現象が起きています。

でも二人ともまったく動じていません。

ニコニコ顔です。

 

ここで疑問が既に生じるわけですね。

この場面、誰かの頭の中の風景ではないかと。

 

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ちなみに診察室のシーンはもう一度登場します。

この時は通常の間隔で席についていますね。

 

カウンセリングは週一回のペースで行われているようですが

奥さんの服装がまったく同一のように見えます。

たまたま、でしょうか?

 

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カルテがチラリと映ります。

統合失調症に相当する語句の記載が。

Schizophrenie)

また住所欄にはマンションの部屋番号が記載されていますが、

301、と読めます。

 

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こちらは役所が、奥さんのことが心配になり

勤務中に自宅へ戻るシーンですが

表札には、401 とあります。

この撮り方は意識的に観客に対して、部屋番号を認識させるような構図ですので

”ここからは現実の話ではありませんよ”

というサインでしょう。

(カルテに書かれている数字のほうが嘘という事も考えられますが)

 

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役所は部屋で奥さんが首を吊っている光景を見て

大きなショックを受けます。

(しかしそれは錯覚で、奥さんは果物をジューサーミキサーに入れているだけだった)

役所が、心の病を抱えている奥さんと暮らすことに大きな苦痛を感じている

~彼女の死を期待している

ということがストレートに描かれています。

(もしも彼女が死んだら、さも悲しんでいるような演技をします~ということも表していますね。しかしそうではなかったので、ホッとするより落胆した表情の役所のカットが続いています)

 

役所は部下の刑事にも非常に冷淡に接していて、決して心優しき

善人ではありません。

そこが間宮から見て、次のMC(伝道師)に相応しいと

見込まれたのでしょうね。

 

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役所は奥さんを精神病棟に入院させます。

道中のバスですが、これは明らかに現実の描写ではありません。

ですので、この後に続くシーンも役所の空想です。

 

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病院では冒頭の医師が迎えてくれます。

しかし、カウンセリングを受けていた施設とは明らかに違うような。

(カウンセリングの時は室内だけ、この入院シーンでは病院の中が映らないので判然としないのですが)

それに服装があまりにラフ過ぎ。

カウンセリングの時にはキッチリ、ネクタイを締めていますので

やはり、奥さんを病院に連れて行ったというのは

役所の幻想(そうだったらという願望)でしょう。

 

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ちなみに「イマジナリー・バス」のカットはもう一回あって

 

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この後、廃院での間宮との対決になっていくわけですが

当然それらのシーンも現実に起きたことではありません。

役所の友人である精神科医うじきつよし)も

この場所を訪問していますが、それも同じく。

 

間宮に惑わされる(間宮からすれば治療のわけですが)

他の人物たちは、いずれも殺人犯行後は茫然自失の状態に

なってしまいます。

しかし役所演じる高部は

身近な人間の連続死にまったく動じる気配がありません。

彼こそがサイコパス(キラー)の資質を兼ね備えていたのですね。

それも自分の手を汚すことは避けるタイプです。

(役所は最後まで勤務を続けていますので、役所が妻やうじきを殺したということはないはずです。うじきは自殺でしょう)

 

さて、セリフが与えられていませんので

見逃しがちなのですが

看護師(婦)さんが

実はかなり大きなウェイトを占めているのではないかと。

 

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奥さんの病院入院シーン

(役所の幻想と思われますが)

看護婦さん、一人後から付いてきますね。

この後、優しく奥さんの肩を抱いて

病棟内に連れていきます。

 

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後に奥さんが死体となって、台車のようなもので

病院内の廊下を運ばれていくショッキングなカットが

一瞬写り込みますが、それを振り返って見ている看護婦さんのアップ。

 

同一人物ですよね。

まったく驚いていません。

おそらく役所の妻は病院内で亡くなったのでしょうが

この看護婦さんの手によるのではないでしょうか?

(奥さんが自死を選んだ、あるいは病院を訪問した役所が殺したという線より可能性が高いのでは?)

 

また別の看護婦さんが、何度か画面に登場します。

 

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うじきが廃院を訪れた時に挿入されているカット

(ですので、現実世界ではないですね)

 

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間宮が、収容されている病棟を抜け出すシーンにも登場します。

 

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先ほどの看護部さんとまったく同じ構図で

アップになります。

 

意味なくこのようなショットを挟み込むことは

あり得ないので、

実に ”意味深” な場面ではないかと。

 

タイトルの CURE の意味合いは

医学的な治癒、治療を指すかと思うのですが

そうであれば看護婦さんというのは、医師と同じく

まさにその実践者に成り得ますよね。

 

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というのもラストのファミレスシーン。

ウェイトレスに駆け寄ってなにかを囁く

マネージャーらしき女性。

 

この人、看護婦さんじゃありません?

(上にあげた二人のうちの後のほう。耳の形とか背格好がよく似ているような)

 

このあとウェイトレスは恐ろしい行動に出るわけですが

それはテーブルに座っていた役所がそうさせた

(間宮から受け継いだ超能力で)

と取るのが一般的な解釈かもしれませんが、

この女性がそうさせた、とも考えられるのではないかと。

 

つまり役所以外にも、救済者(伝道師)は居るのだと。

 

間宮は以前、医学生でした。

役所は刑事、

いずれも病気や怪我、犯罪から人々を ”CURE” する職業です。

そのラインアップに加わるのが看護婦(元?だとしても)というのは

自然かなと。

 

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しかし、この映画は手強いんですよね。

というのも、このシーンが現実のものかどうかが

怪しいので。

 

やっかいな奥さんも気の合わない部下も居なくなって

スッキリした役所。(実際、前に来た時よりずっと快活、食事も完食)

これから俺が、スーパーMCだ、抑圧されている人の心を解放してやるぜ!

であれば、一応ケリがつくわけですが

 

ウェイトレスが包丁を手に取る場所

これ、レジの近くで

お客さんも自由に行き来するエリアです。

 

そんなところに包丁(小型のナイフとかではない)

置いてありますかね?

あらかじめ隠していたというのも変でしょう。

 

であれば、このラストの場面が役所の想像、願望である

可能性もありますよね。

 

つまり役所は途中で自由を失っている

(奥さんや部下、あるいはうじきを殺したことで)

~既に逮捕済み、という解釈です。

(他の刑事との関係性もちょっと変なんですよね、車に同乗している場面とか)

 

いやはや、リンチの ”マルホランド・ドライブ” を

上回る「噛み応え」のある作品です。

 

他にも光や炎の点滅、水滴、各種ノイズが

全編上手く使用されているのですが

それらに触れていくと、もうキリが無いので

打ち止めにしましょう。

 

いやー、3回目でまた

何か分かるかも。

 

CURE      Trailer

www.youtube.com