黒沢清監督の後期オリジナルビデオ作品。
同時期製作の ”蛇の道” はVシネテイストの範疇でしたけれど、
これはちょっと風変わりというか、ある意味
調理の下ごしらえに凝った、盛り合わせ定食のような映画ですね。
哀川翔と中村久美の夫婦
数年前に娘を惨殺されるという辛い過去があるのですが
互いを思いやる日々を送っています。
復讐心に燃える哀川は犯人(寺島進)の所在を突き止め
監禁拉致、暴力の限りを尽くしたうえ
命を奪います。
その後、高校時代の同級生(ダンカン)と遭遇
貿易関係の仕事を手伝って欲しいと声をかけられ
それに応じます。
しかしその実態は裏稼業、しかも殺人行為でした。
哀川はやがて、躊躇することなく
人の命を奪う人格に変容していきます。
友人であれ女性であれ、狙った相手へ向けられる銃口に迷いはありません。
かつては哀川を信頼していた妻にとって
今の夫は別人です。
二人で食事中に耐え切れなくなって、嘔吐してしまう妻。
しかし哀川は構わず、箸を進めます。
ストーリーからすると非常にハードな印象を受けるのですが
オフビート的なシーンが挟み込まれていたり
ユーモラスな場面も多数。
役者の顔ぶれが重なっていることもあり、
北野映画を思わせたりもしますね。
組織の幹部役の大杉漣が怪演です。
またホラータッチでもあり(娘の幽霊が出てくる)
一口に形容できない&一癖も二癖もある
黒沢テイストが満載。
(殺されたはずの寺島進が映画の終盤、車椅子で哀川の前を通り過ぎていく)
評価の高い前年の ”CURE” に比べると地味な存在ですが
”ソナチネ” やタランティーノ作品、昔のヌーヴェル・ヴァーグが
好きな方なら是非に。
蜘蛛の瞳 予告編