バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

罪悪感ゼロ、殺したほうがスッキリするでしょう? 桐野夏生の独壇場 "I'm sorry,mama."

 

まあおよそ、小説や映画の主人公は

せいぜい30代くらいまでの設定が多いですよね。

シニアの年齢が主役というケースもありますけれど

渋いミドルやスーパー老人が大活躍、

あるいは老いに対する焦燥や孤独感を描いたものが

チラホラある程度かと。

 

小説すばる」に2003年から翌年にかけて連載された

本作はそういう意味では異色のストーリー。

 

47歳の女が次々と人を殺していく~

それも60代や70代の女性を、です。

(若い時から殺人を犯していますし、”殺せる状況”なら、相手が男でも躊躇しない)

 

この主人公は人の命を奪うことに、罪悪感をまったく感じていません。

そのほうが都合が良ければ即、実行に移すだけです。

かといって冷静沈着な思考を持っている頭脳犯でもなく

要は行き当たりばったりなんですね。

 

話が進むにつれて、殺される(あるいは殺されていた)人の数が

増えていくのですが

その場限りの主人公の行動が

ある種の軽さを産んでいて、

同時期に執筆されていた大作 ”グロテスク”のような

重厚感はありません。

 

 

また、59歳の女性の失踪劇をエンタメ色豊かに描いた

”魂萌え” とも異なるタッチですね。

 

主人公の女性に限らず、登場人物はみな

一癖も二癖もあるキャラクターばかりで

ステレオタイプの善人、良き隣人は皆無。

 

こういうダーク&ハードボイルドな文体は

まさに作者の独壇場ですね。

 

 

若干、話の展開が不自然だったり

後半が端折り気味かなという気もしますけれど

気軽に読める(なんて不謹慎かもですが)

連続殺人物語、ですね。

 

おそらく映像化はされていないと思いますので

(テレビは無理ですね。するとしたら映画ですけれど誰が撮ると面白いでしょうか)

ここは活字で、キリノワールドを堪能しましょう。