バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

黒い家から聞こえてくるのはバカラックの調べ・・・

 

森田芳光監督の99年度作品、”黒い家”

大竹しのぶの「憑依演技」が堪能できる

恐怖の2時間です。

 

 

映画には原作にはない描写が

かなり加えられていて

(大竹がプールで泳いだりボーリングをしたり)

各登場人物のキャラクターも

活字から想像されるイメージとは随分違うのですが

見どころの多い力作ですね。

 

 

さて原作は貴志祐介の同名小説(96年に雑誌連載)ですが

こんな1節があります。

 

”若槻はバスルームに入ると、シャワーを浴びながら調子っぱずれの口笛を吹いた。バカラックの「アー・ユー・ゼア・ウィズ・アナザー・ガール」のつもりだったが、自分の耳にさえ、自棄になって鳥の鳴き真似をしている男のようにしか聞こえない。外で聞き耳を立てていたらしい恵が吹き出した”  

 

大竹にとんでもない目に遭わされる若槻と恋人の恵の

(まだ)平和だった頃の微笑ましい描写ですが、

ここで登場するナンバーは

バート・バカラック作曲で、ディオンヌ・ワーウィックが歌った

”Are You There (With Another Girl)”

のことでしょう。

 

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1965年の暮れにリリースされた曲ですが

チャート(米ビルボード)では39位が最高位でした。

 

小説の主人公である若槻は27,8歳という設定ですので

1965年にはまだ産まれていない計算になります。

 

そんな世代の日本人男性が

ビートルズでもイーグルスでもアバでもなく

ディオンヌ・ワーウィックのマイナーヒットを知っていて

しかも口笛を吹くほどに親しんでいるというのは

かなりレアなケースかなと。

(ちなみに若槻は保険会社勤務で、音楽関係の仕事に就いているわけではない)

 

この曲は極端に技巧的な作りになっていて

そもそも素人が歌える(歌おうとする)ような

甘っちょろいものではないんですよね。

(プロのシンガーでも歌いこなせる人は少ないはず)

 

で、口笛を聞いていた恋人(大学時代の同級生)が吹き出してしまうということは

その女性もこの曲を知っているわけですよね。

だからこそ、若槻が上手く口笛を吹けなかったことが

分かるわけで。

 

うーん、確率的には宝くじ的な数字だと思いますよ

それは。

 

 

だからちょっとね、読んでいた時に違和感があったんですよ。

なんでこんな曲名をわざわざ出すのかなって。

 

でももしかしたら、アナザー・ガールというのは

大竹のことを暗示しているのかもしれませんね。

やがて若槻と恋人は

大竹と(望まない)with~ウィズの状態になっていくわけで。

 

深読み、ですかね・・・

さておき

活字&映像&音楽の3点セットを堪能あれ。

 

黒い家  予告編

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