黒澤明の”天国と地獄”(1963年)
監督の現代ものの作品中、
もっともよく知られていて
人気のある作品です。
手許にある映画ランキング本や
黒澤(&映画)についての評伝、解説本を読んでも
「傑作」ということになっていて
マイナスの評価というものを見たことはありません。
この映画は大きく
3つのパートに分かれていて、
冒頭の権藤(三船敏郎)邸の室内シーン
こだま号から現金を投げ落とすシーンを含む、
誘拐犯に翻弄されながらも
身元を突き止めていく刑事たちの奮闘を描く中盤部分
いずれもスピード感に溢れていて
非の打ちどころのないショットの連続。
これだけテンポの速いシーンの切り替えは
黒澤作品でも唯一ではないかと。
(故に、時代が経過しても古さを感じさせない&若い世代が観ても退屈しない)
しかし、しか~し
犯人の目星がついて
身柄確保へ動き出す箇所(見せ場になるはず)になって
私はズデーンとこけてしまったのです。
尾行のために変装した刑事たちに檄を飛ばす仲代達矢、
あれっ?
笑いを取りにきたのかな?
今までの展開からして、それはないだろう。
(しかし各人の変装姿がいかにも過ぎる・・・)
で、尾行開始となるのですが
(延々と長い)
あの、あまりに犯人に接近しすぎでしょ。
間違いなく気付かれますよ。
というか気付かないほうがおかしい。
(なので私は、犯人はそれを承知でどんでん返しがあるのかと思ったのですが)
酒場や廃墟のような場所での麻薬の受け渡し場面
この辺りが過剰、やり過ぎなんですよね。
(それが黒澤作品の特徴なんですが)
エキストラの動きや表情が極端に芝居がかっていて
前衛芸術の舞台を観ているような~
リアリティがどんどん無くなっていくんですよ。
前半~中盤部分との落差があまりに激しすぎて。
この辺りは無くてよかったと思いますね、
ばっさりカットしていたら、最高の傑作になっていたのに・・・
あと、タイトルからして
この映画は社会の不公平さがベースになっています。
権藤邸は高台にあって、犯人の山崎努はそれを見上げて
憎悪を燃やすわけですね。
「お前らだけいい暮らししやがって・・・」
しかし山崎努は医者なんです(まだ研修生ですが)
むしろ身分の保証された、
普通は人に尊敬されたり羨ましがられる職業なわけです。
三船の家族に対して個人的な恨みがあるわけでもないので
どうも動機の部分も弱いかなと。
作品の主な舞台は
横浜(伊勢佐木町、黄金町)、小田原、腰越あたりでしょうか。
江ノ電とか出てきますね。
(犯人特定のかなり重要な手がかりになっている)
私、神奈川県民&江ノ電沿線住人でしたから
いってみればご当地映画なんですね。
(共犯者の隠れ家付近、だと思います)
なので、親近感もあるんですね。
「三分の二まで」という条件プラスならば
間違いなく一押し
&ご贔屓の一本であります。
監督、どうも失礼いたしました・・・
予告編