バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

戦前の「モダーン小津」の小品佳作 ”その夜の妻”

 

小津安二郎監督の

1930年(昭和5年!)製作。

断片ということでなく

完全な長さで残されているものとしては

もっとも古い作品のひとつですね。

 

 

序盤は

急病に罹った子供の治療代のために

強盗にはいった岡田時彦と警官隊のチェイス

 

 

戦後の小津作品にはおよそ見られない

”洋画テイスト” 100%

 

 

以降は

アパートの室内で

岡田、妻の八雲恵美子、寝床に臥せっている子供、刑事

の4人による心理戦が展開されます。

 

 

印象的なのは部屋の造作

岡田の職業が洋画家ということもあって

まるでアンティーク調のカフェのようにお洒落。

天井高もあるので、狭苦しさがまったくありません。

(食事も白飯でなくてパン、淹れたコーヒーを飲んでいます)

 

 

そんなハイカラなムードのなかで

八雲だけが和装~着物姿。

監督、意図的に狙ってますね。

(机のうえの小物類や壁に貼られたポスターなどの凝り具合も同じく)

 

 

岡田への牽制でしょう

刑事がしきりに手錠を見せつける

クローズアップのカット。

 

 

ラスト、岡田は逃げるチャンスもあったのですが

おとなしく刑事に連行されます。

その際には刑事は手錠を使いません。

優しく腕を組むだけです。

(窓から八雲と元気になった子供が見送っています)

 

 

二人が連れ添って

夜明けの街を歩く後ろ姿で

ジ・エンド。

 

いやあ、上手いですね。

一時間ちょっとの小品(オリジナルはモノクロ)ですが

ウェルメイドな佳品です。

 

脇の出演ですが

医者役で

初期の小津作品に欠かせない名優

斎藤達雄の姿も。

 

 

当時としては極めて高身長(優に180センチを超えていた)だったので

八雲と並ぶとその差が際立ちますね。

 

岡田&八雲は

翌年の ”東京の合唱” でも

名コンビ~夫婦を演じています。

 

”東京の合唱”(1931年) 左の子役は7歳の高峰秀子