バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

師には変わらぬ尊敬を、妻には永遠の愛を・・・

 

100歳で世を去る直前まで

精力的に映画製作を続けた

新藤兼人監督。

 

徴兵、撮影所の下積みの後

39歳での初監督作品が

”愛妻物語” (1951年)

 

 

監督自身の半生をベースにした

自書伝的内容で

宇野重吉が夫(新藤)

乙羽信子が妻を演じます。

 

 

新藤監督は生涯で

3度結婚しているのですが

ここで描かれているのは

最初の奥さん(病気による死別、映画でもその模様が丹念に撮影されています)

および生涯の師となる大監督

溝口健二(映画では滝沢修)との

若き日々です。

 

 

新藤、乙羽は互いに強く惹かれ合い

この後多くの作品でタッグを組むことに。

プライベートでも付き合いが始まるのですが

その頃監督は2回目の結婚生活に入っており

乙羽とは不倫の関係となります。

 

新藤と乙羽が正式に婚姻したのは

監督が60歳になってから。

その後のおしどり夫婦ぶりは

よく知られているところですね。

 

 

しかし乙羽は

70歳の若さで病に倒れてしまいます。

 

午後の遺言状(1995) 予告編

www.youtube.com

 

(乙羽の遺作 ”午後の遺言状” では既に体調がかなり悪化しており、監督以下スタッフは気遣いながらの撮影を続けますが、カメラを前にすると乙羽は見違えるような演技を見せた)

 

”愛妻物語” では大先輩の映画監督

溝口健二との師弟関係がもう一つの軸になっています。

 

溝口監督は非情とまで言える厳しさで

新藤青年に接します。

全てを犠牲にして書き込んだシナリオ~脚本を

悉く却下。

新藤は自死を考えるまでに追い詰められます。

 

溝口健二は役者やスタッフに妥協を許さず、限界まで力を尽くすことを求めた)

 

後年、新藤監督は他監督への脚本提供でも

高い評価を受けており

自分を厳しく鍛え上げてくれた溝口監督に

”ある映画監督の生涯 溝口健二の記録”

という素晴らしいドキュメンタリーを捧げています。

 

新藤と乙羽の出会いや最後の日々については

「愛妻記」新藤兼人著・新潮文庫

に詳しく記されているのですが

乙羽の「私は最初、宇野さん(映画で新藤役を演じた)を好きになったんだけれども」

などの興味深い逸話も。

 

愛する女性と敬愛する師匠への

変わらぬ想いを

数々の新藤作品~ほとんどで乙羽が出演

で確かめることが出来るのも

映画の醍醐味と言えそうですね。

 

 

参考図書

「小説 田中絹代新藤兼人著・文春文庫

文藝春秋 2016年3月号」文藝春秋