バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

玄人好みの逸品、映画通が唸りまくる一時間半 ”夜行列車”

 

1959年のポーランド映画

(監督/イエジー・カヴァレロヴィッチ)

 

これは教科書ですね、映画作りの。

無茶苦茶完成度が高いですよ。

細部への拘りも凄いんですけれど

状況設定がそもそも完璧なんですよね。

 

 

夜行列車に乗り合わせた乗客のスケッチなんですね。

 

男女のカップルが居るんですが

別れ話の進行中。

(男は未練たらたら、女はすっかり冷めきっている)

なので車両が別なんです。

 

男は普通席

女は寝台席

 

 

しょうがないから

男は手紙を書いて車掌に渡して

女に届けてもらうんですね。

(普通車両からは勝手に寝台車には行けないようになっている)

 

 

上手い!ですよね。

 

二人が同じコンパートメントだったら

画面に変化が出ないし

ひたすら会話劇になっちゃうところを

うまく防いでますよね。

(男はこの後も、あの手この手で女に近付こうとします)

 

 

車内は非常に混んでるんですね。

通路にまで人が溢れてるんで

ちょっと移動するにも大変。

なので、距離が(顔が)近いんですね

客同士あるいは乗務員と客のあいだで。

 

ひとつひとつのカットに複数の人間が入り込んでいるので

各自の表情の変化~思惑の違いが

よく分かる仕掛けになっています。

 

 

寝台車のベッドは上下2段。

その高低差を活かしたショットが多数。

また、テーブルや椅子は無いので

二人が同時に寝ている時以外は

下のベッドに並んで腰かける形になって

密な空間が発生するという。

 

「走行中の電車内を映してるだけだから退屈」

とはならないよう、あらゆる工夫が凝らされているわけです。

 

更に、

 

 

途中で電車が停まるアクシデントが起きるんですね。

それも駅ではなくて墓地のある荒野・・・

ここでも俯瞰ショットを効果的に使って

ダイナミックな映像処理をしていますね。

 

 

翌朝、終着駅も近くなってくるのですが

列車は海岸沿いを走るんですね。

陽の光が降り注いで視界がパッと開けます。

 

 

女はどこか行くあてがあるのでしょうか、

一人で下車、列車から遠ざかっていきます。

 

ここをですね、普通はラストシーンにもってくるかと

思いきや

 

 

車掌さんをアップで映すんですね。

 

この女性車掌は大変に真面目で

きっちり職務を遂行してきたのですが

お客さんが全員下車して、責任は果たしたわけです。

乗客が置いていった食べ残しを目ざとく見つけてガブリ。

(視線の先にはトボトボと歩く女の姿)

 

いやあ、プロですね。

実にプロフェッショナルな捌き方です。

(映像はここでも切れないで、更に違うシークエンスとなります)

 

映画ファンが集まって観たら

トーク盛り上がり間違いなし。

あっ、今のセリフ

おっ、このカメラアングル

とか何時間でも話せるんじゃないかな。

 

 

男女を演じるのが

ルチーナ・ウィンニッカとズビグニエフ・チブルスキー

女と同室になる医者役でレオン・ニエムチック

当時のポーランド映画界の

エース&クイーン級の配役です。

 

サントラも耳に残りますね。

(かなりのパートで流れている)

マイルス・デイヴィスばりのミュートと

ビブラフォンのソロがナイスです。

ポーランドの一線級のジャズメンが演奏)

 

music from "Night Train"   arrange by Andrzej Trazaskowski

www.youtube.com

 

しかしこれだけの作品を

60数年前に作られてしまうと

後続がね

ちょっとやりようがないですよ。

あとはもう、列車を超高速にするとか

爆破させるとか

そういう方向性になっちゃうよね・・・