バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

「何を甘ったれたこと言ってるんですか」 植木等、天皇黒澤を大いに叱る

 

黒澤明監督の ”乱” (1985年)

 

シェークスピアの ”リア王” がベースとなったストーリーと

視覚的なスケールの大きさで

海外から特に評価の高い作品ですね。

 

 

主演の仲代達矢も貫禄の演技

 

 

仲代の息子たちに

寺尾聰根津甚八、隆大介

 

結局

本当に親を慕っていたのは

誰だったのかということなんですが

ちょっと展開がね、独善的というか

162分というのは正直しんどいかなと。

 

 

異彩を放っているのが

植木等

出番は多くなく、コメディリリーフの立ち位置ですが

60年代のクレージー映画で見せた

底抜けの明るさが

陰鬱な場面が多い本作の

良い意味での息抜きになっています。

 

 

戸井十月著の

植木等伝~「わかっちゃいるけど、やめられない!」

小学館文庫)

には撮影当時のエピソードが収められているのですが

そこでの植木等

思い切り、黒澤監督をこき下ろしています。

 

(メイキングシーン、左より植木、隆、黒澤)

 

”なんだ、こんなことで怒るのか、下らない奴だなあと思ってね”

 

”現場では、さすが黒澤明ってところは一つもなかったなー”

 

ここで監督から怒られているのは植木等本人でなく

隆大介なんですね。

確かに動作やセリフの全てに厳しい叱責を受けているのが確認できます。

 

植木等には終始ゴキゲンの監督)

 

”黒澤さんという人は好き勝手なことを言う人だった”

 

”甘ったれてるな、大した男じゃないなと思っただけなの”

 

当時の黒澤監督の威光は絶大で

ここまでズバリと(しかも面と向かって)言える人は

誰も居ないでしょう。

撮影後の夕食の席での発言だったようですが

監督は何も言い返さないで、部屋に帰ってしまったとのこと。

 

 

私生活では極めて常識的で

周囲を気遣うタイプだった植木等からすると

監督の態度が不遜に感じられたのでしょうね。

 

この作品は興行的にヒットはしたのですが

製作予算が余りに高額だったため

結果として大幅な赤字を計上してしまい

以降、黒澤監督は構えの小さい小品を

撮らざるを得なくなります。

 

 

私は正直

80年代以降の黒澤作品を

それほど好きにはなれませんが

監督の体力が良好に保たれ

潤沢な製作予算が確保されていれば、

全盛期の諸作に並ぶ映画を残す可能性も

あったかもしれませんね。

 

今頃、天国で

植木さんに言われてることでしょう。

 

”あなたね、怒っちゃだめでしょ。怒っちゃ。好きなことやってるんでしょ。仲間もいっぱい居て。何が不満なんですか”

 

って。

 

”うん、そうだね。つい夢中になってしまうと気持ちが抑えられなくてね。御免御免。ところであなたには次回、主演してもらいたんですよ。タイトルはね、「日本一の映画監督」、もちろん僕のことなんだけどそれをあなたにやって欲しいのよ」

 

なんてね・・・

 

”乱” 予告編

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不思議、ではなく不機嫌なアリス&シタールの調べ・・・イギリスの異色TVドラマ

 

昨日は

不思議の国のアリス” の

映像作品名をいくつか挙げましたが

それ以外にもまだまだあるんですね。

なかでも孤高の存在が

1966年末に

英国BBCテレビで放映されたバージョン。

 

 

出てくるのがみんな

人間なんですよ。

被りものとか縫いぐるみとかアニメとの合わせ技

なんてことは一切無し。

 

 

原作のキャラクターは活かされてるんですが

それを人間が演じてるんですね。

(服装はビクトリア朝

 

 

アリスは終始、無表情です。

(はしゃいだり驚いたりしない)

 

 

なので

ファンタジー色は無いですね。

子供のためのおとぎ話という雰囲気は皆無で

シュールかつ諧謔味濃厚な世界観です。

 

 

映像も凝りに凝っております。

 

 

それもそのはず

監督が鬼才ジョナサン・ミラーですから。

役者陣も一癖も二癖もある顔ぶれがズラリ。

 

 

ロケーションも1800年代に建築された

病院やホールで行っているとのことで

重厚感がありますね。

モノクロの引き締まったカメラ撮影も魅力的。

 

 

そしてなんと

音楽がラヴィ・シャンカールなんですよ。

不思議の国のアリス

シタールの幽玄な音色・・・

ミスマッチかと思いきや

これが結構ハマってるんですね。

 

ビートルズ後期や70年代の

ジョージ・ハリソンが好きな人なら

きっと気に入ると思いますよ。

(モンティパイソンのファンの人も同じく)

 

小さな子供たちが観ると

退屈!

と不平が出ること間違いなし。

 

なので大人が観ましょう。

 

"Alice in Wonderland" (1966 )  Theme by Ravi Shankar

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不思議の国のトランプカード

 

不思議の国のアリス” といえば

世界でもっとも親しまれている児童小説ですね。

奇妙キテレツなキャラクターがこれでもかと

登場しますが、

なかでも「トランプ隊」の面々は

ユニークな存在です。

 

映画化されたアリス~

は多数ありますけれど

歴代の作品で

どのように映像化されてきたのか

ちょっと観比べてみましょうか。

 

 

もっとも初期の映画作品が1903年製作。

(監督/セシル・ヘプワース、パーシー・ストウ)

子供たちの楽しそうな行進風景ですね。

アリス(メイ・クラーク)は

頑張れ~と子供たちに拍手しています。

 

 

1910年版(監督/エドウィン・S・ポーター)では

カメラが固定されているので

舞台中継のような感じです。

 

 

1915年版(監督/W.W.ヤング)は

初の長編(約1時間)となって

ストーリーの展開に膨らみが感じられます。

アリス(ヴァイオラ・サヴォイ)もハマり役で

個人的には好きな一本ですね。

 

 

1931年版はトーキーの時代になっていますので

アリスの声を聞くことが出来ます。

(監督/バッド・ポラード)

アリス役のルース・ギルバートは

ちゃきちゃき&陽気なキャラ設定。

 

 

1933年にはゲイリー・クーパーケーリー・グラント

出演したオールスター映画が登場。

(監督/ノーマン・Z・マクロード

エンタメ色全開で

トランプカードのシーンは

ミュージカル仕立てになっています。

 

 

1949年のフランス製作版は

人形アニメーションを駆使した意欲作。

カードの場面は短いんですが

カラーになっていることもあって

インパクトがありますね。

(監督/ダラス・バウアー)

 

 

言わずと知れたディズニーの1951年作品では

トランプカードのシーンが最大の見せ場になっています。

まさにアニメの独壇場といったところ。

 

 

ウィリアム・スターリング監督の1972年バージョンは

全篇ミュージカル。

オズの魔法使い” に似た雰囲気がありますね。

 

 

異色な存在が

チェコスロヴァキア

ヤン・シュバンクマイエルが撮った

”アリス~Něco z Alenky ” (1988年)

 

コマ撮りアニメーションを駆使した

実験的な作風です。

 

 

作者のルイス・キャロルが亡くなったのが

1898年(65歳没)

あと10年くらい長生きしていたら

動くアリスを観ることが出来たわけで

どんな感想を持ったでしょうね。

 

生前のキャロルは

自著の挿絵画家に対しても

細かいリクエストがあったようですから

「違うんですよねイメージが。私が監督しますよ、というか私にさせなさい!」

なんてことになったりして・・・

それも観てみたかった気もしますね。

 

JOHN TENNIEL'S ILUSTRATION for "Alice in Wonderland"

LAURA&MILES 1968/1970 二人のオンリー・ワンの微かな交差

 

ローラ・ニーロ

マイルス・デイヴィス

 

どちらも不世出

並ぶ者の無い孤高のミュージシャン。

ジャンルや年齢は違うのですが

この二人が空間を共にしたひと時が

僅かにあったのですね。

1968年から1970年にかけて。

 

 

ローラが空前絶後の傑作

”ニューヨーク・テンダベリー” を

録音していた頃、

マイルスもまた同じスタジオで

”イン・ア・サイレント・ウェイ”

の制作に取り掛かっていました。

 

 

マイルスの手にはトランペットが見えますね。

二人は同じレコード会社に所属していましたので

マイルスがその気になれば

共演の実現も難しくなかったのですが、

 

"YOU DID IT ALREADY"

 

とマイルスは一言呟いただけ。

 

「お前さんにはお前さんのスタイルがあって、充分にそれが表現されているよ。俺が付け足すとパートは無いんだ」

 

という、他者の演奏には厳しいマイルスの

最大限のリスペクトが込められています。

(マイルスが真に認めていた白人のロックミュージシャンはあと、ジョニ・ミッチェルくらいでは?)

 

Mercy on Broadway     Laura Nyro

www.youtube.com

 

二人はその後

ライブ会場では同じステージに立っているようですが

 

 

こちらも共演したということではなく

あくまで別々の登場のようですね。

 

Laura Nyro TV appearance - January 1969

www.youtube.com

 

マイルスはその後70年代に入ると

怒涛のファンクロック路線へ

ローラはレコード制作のペースが鈍り

新作発表の間が空くようになっていきます。

 

マイルスは1991年に65歳

ローラは1997年に49歳で世を去りますが

生前に一枚だけでも

がっぷり四つに組んだアルバムが実現していれば・・・

 

 

でも

この二人だと

意見がぶつかりそうだなあ。

誰か仲裁役にプロデューサーを依頼しないと。

 

ジョニ絡みで

ウェイン・ショーター

やってもらうという

手もあったかな?

 

 

しかしそうなると

一般受けはしないだろうなあ

普通のリスナーだとついていけない

種類の音楽になりそう。

 

オンリー・ワンが二人じゃなくて

三人だもの・・・

 

便利過ぎて悔しい・・・最近のバンコク電車網

 

ちぇっ、快適過ぎちゃうよ。

無茶苦茶スムーズじゃない

乗り換えも。

 

 

いやね、先日

バンコク市内にある入国管理局~イミグレーションに

行ってきたんですけども

電車でね、行けるようになったらしく

乗ってみたんですよ。

 

 

あんれまあ

開いた口が塞がらないとは

このことですがな。

あっという間に着きましたよ。

 

 

以前はね、実質タクシー利用しか無かったんですよ。

(市内中心部から離れたロケーション)

道路がね、凄い渋滞で時間が読めない。

どこのお国もそうだと思うんですが

入管の施設って激混みのことが多いんですよ。

早めに行って整理券貰ったりとかね。

 

だから朝真っ暗なうちから家を出たり。

ホントに半日

下手すると一日仕事だったんですね。

 

そういう時代と比べるとね

快適過ぎちゃってね

ある種、拍子抜けというか・・・

 

 

ひたすら路線バスで移動していた

三十数年前のバンコクとは

まったく別の街になったんですよね。

 

イミグレーションは政府総合庁舎の敷地の奥。無料のシャトルサービス利用が便利

 

でも(懐古趣味はさておいて)

昔のバンコクのほうが活気があった~

賑やかだったような気がするんですよ。

景気不景気の問題なのかな

それとも人の心の在り様?

単に自分が齢を取っただけかしら・・・

 

 

ใจรัก      YOKEE PLAYBOY

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RE-MAKE/RE-MODEL 二人のボニーと二人のクライド

 

俺たちに明日はない

(監督/アーサー・ペン・米)

 

これは無茶苦茶よく知られてますよね。

普段映画を観ないという人にも。

 

 

もう配役がね

ボニー・パーカーにフェイ・ダナウェイ

クライド・バロウにウォーレン・ベイティ

 

 

加えて、ジーン・ハックマンエステル・パーソンズ、マイケル・J・ポラード

という鉄壁布陣のキャスティング。

 

 

キネ旬のランキングでも堂々一位

 

 

絶賛、絶賛の嵐ですね

あらゆる評論家筋から。

 

実はこの決定版に先立つこと9年前にも

ボニー&クライドの映画化はされているんですね。

(インスパイア系を含めると更に他にもあるのですが、あくまで史実に沿った内容の作品として)

 

 

”鉛の弾丸(たま)をぶちまかせ” 

という日活アクションのような邦題が付いていますが

もともとのタイトルは

"THE BONNIE PARKER STORY" 

とシンプル。(監督/ウィリアム・ウィットニー)

 

 

タイトル通り

こちらの映画ではボニーが主役なんですね。

一味のリーダーは完全にボニーで

クライド(ジャック・ホーガン)や他のメンバーの

存在感ははっきり言って希薄。

 

 

そうなるとボニー役の女優さんの芝居が

重要になってくるわけですが

その大役を担っているのが

ドロシー・プロヴァイン。

 

 

これがいいんですよ。

もうマシンガンをガンガン撃つわけです。

事を起こすのに躊躇なし。

 

 

どんな時も自分が先頭

男たちをリードしていくという。

その佇まいは爽快といって良いくらいです。

 

 

二人の最後の場面

初めはクライドがハンドルを握っていますが

 

 

途中でボニーにチェンジしてますね。

非常に良いショット!

 

 

横転した車の大写しでジ・エンド。

ダナウェイ&ベイティ バージョンの

あの壮絶な場面は無しです。

 

全体としては

時間も短く(80分足らず)

予算的にも潤沢でなかったでしょうから

スケール感は67年版にまったく及びません。

脇の出演者たちも弱いですし。

 

でも個人的には惹かれるものがあるんですよね・・・

 

実際のご両人に訊いてみましょうか

どうでしょうね?

 

 

そりゃあ、俺たちのほうが上に決まってるじゃないか。

そうよ、当たり前じゃない!

 

ですよね、そりゃあ

そうですよね

あまりの愚問で失礼しました。

Please don't shoot me・・・

 

scene from "The Bonnie Parker Story" (1958)

www.youtube.com

 

参考書籍

映画検定 公式テキストブック」キネマ旬報映画総合研究所編・キネマ旬報社

「外国映画 ぼくの500本」双葉十三郎著・文春新書

「ぼくが選んだ洋画・邦画 ベスト200」小林信彦著・文春文庫

グルメと非グルメの分水嶺

 

グルメ~食通、美食家の人って

かなり居ますよね。

日本は食の水準が高いですからね

一億総美味しんぼ

みたいなところもあったりして。

 

 

”グルメの条件” って

あると思うんですよ。

 

まずね、調べると。

情報収集。

凄い数の選択肢から絞り込む。

ここでもう脱落する人も居ますよね。

う~ん、適当でいいんじゃないの

みたく。

 

 

で、決め込んだとしても

美味しい店って

だいたいすんなりとは入れないでしょう?

予約必須とか行列覚悟の場合がほとんど。

 

人気店だと相当前から埋まっちゃう。

一見さんだと不利になったり

そもそも受け付けないとか。

 

グルメの人は果敢に挑みますもんね。

少々遠距離だって駆けつけますもの。

 

陸上競技でいえば

400メートルのハードラーですよ。

障壁が続いても

なんのその。

 

日本の身内にそういう人が

居ますけど

味そのものについては勿論のこと

周辺情報にも詳しいんですよね。

 

あのレストランの〇〇は美味いけど△△は不味い・・・

どこそこのシェフはなんたらの店で修行を積んだ後に海外修行に行って・・・

云々。

 

 

私はその点

グルメ完全失格ですね~

 

まず行かない、動かないですから。

そのためにわざわざ出かけるということは

あり得ない。

 

 

行列にも絶対並ばないですね。

というか店内が混んでるだけで入りません。

あとテーブルや座席の間隔がキチキチの場合も

パスですね。

 

 

基準が味じゃないんですよ。

空いててゆったりしてるかどうかが

決め手なんです。

 

味がね、1~2ランク落ちても

そっちのほうが優先順位が上。

(勿論あまりに不味いのは嫌ですよ)

 

 

食についての

文章とか映像を

読んだり見たりするのは

嫌いじゃないんですけども。

 

だから二次元なんですよ

興味のレベルが。

平面的なものに留まってしまってるんですね。

 

だめだこりゃ~

 

なので読書で

堪能することにしましょう。

 

 

平山夢明の ”ダイナー”(ポプラ文庫)

500ページ超のボリュームですけど

これはグルメの方にもお勧めです。

きっとお腹もいっぱいになりますよ。

 

「味付け」が強いので

腹(頭)の具合が悪くなる人も多いかもしれませんが・・・