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タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

邦画ラストシーンの最高峰はこれだ~「山の音」成瀬巳喜男&原節子

 

映画の名ラストシーンと聞いて

思い浮かぶのはまずは

「第三の男」(1949年)でしょうかね。

もう、あまりにも有名。

 

で、日本映画での印象深いラストシーンといえば

これですよ、これ。

 

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成瀬監督の「山の音」(1954年)

 

全体としては暗い映画なんですね、

登場人物がそれぞれの事情があって

皆、揃いもそろって不機嫌なわけです。

ですから、観ていて楽しい、という作品ではないです。

成瀬作品によく見られるユーモア漂う場面もほぼ無いし。

 

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いよいよフィナーレのシーン

原節子は一人ベンチに座っています。

 

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待ち合わせた義父(山村聰)がやってきて

笑顔で迎えます。

 

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彼女は言葉に尽くせぬほどの傷を心に負っています。

しかし涙を拭って、

 

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義父と二人で、光に満ち溢れた公園の広々とした空間に

足を踏み入れていきます。

 

何という映像美、奇しくも枯れ木の木立が

「第三の男」を思わせますね。

 

更に凄いのはセリフです。

「第三の男」ではアリダ・ヴァリは無言で通り過ぎていくのですが

(それがまた最高なのですが)

こちらの作品では以下のようなやり取りがあります。

 

山村「のびのびするね」

原「ビスタに苦心してあって、奥行きが深く見えるんですって」

山村「ビスタってなんだ」

原「見通し線って言うんですって」

 

これで最後なんです。

最初は唐突に聞こえたんですね、二人の問答が。

ん、んん?

話の筋に関係ないし、何を言いたいのかよく掴めない・・・

 

しかし観返しているうちに震えがきました。

 

非常に抽象的な会話ですが

これからの人生に仄かな希望を抱かせる

言葉が選ばれていて

超絶の終わり方だと思います。

 

脚本(水木洋子)も凄いし、それを認めた監督もまた。

 

ちなみに川端康成の原作とは全く違ったエンディングです。

原作ではこの場面はラストではなく

全体でいうと三分の二を過ぎたあたりに置かれていて、

公園での二人のやり取りは

この後も続いていきます。

 

また小説では

公園のなかには他に多くの人が周りに居るように

描かれていますし、

原節子の服装も

”濃いグリインのセエタアは半袖で・・・”

となっていて、コート姿の映像の雰囲気とは

随分異なる設定です。

 

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どちらが上か?

川端先生には悪いですが、これ

映画版ですよ。

私にはそう思えます。

 

成瀬監督の名作は他にもあまりにも多くて

「流れる」(原作 幸田文)もよく知られていますね。

 

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この映画の見どころは・・・

いやいやもう、止めましょう

キリが全くありません。

また、別の機会にね。