「東京物語」には明確な主題~テーマがあって
登場人物のセリフや動きは全て
それ(親と子&田舎と都会の断絶)を表現するために
組み立てられています。
親は子供が期待したようには育たなかったことを
不満に感じています。
それぞれの思い(愚痴)がかなりストレートに
しかも繰り返し出てくるので
その部分がちょっと過多~ヘビーかなと。
尾道に帰った東山が危篤という報せを受けた
長男(山村)と長女(杉村)、
「ねえ、喪服持ってく?」
「ああ、そのほうがいいだろうな」
という内容の会話のシーン。
非常にドライな描き方です。
葬式で集まった兄や姉の態度に
寂しさと違和感を抱く
親思いの次女(香川京子)
「お兄さんやお姉さんも忙しい、悪気があるわけじゃないのよ」
と、香川を慰める原。
手前の植物が亡くなった東山の象徴ですね。
自分を気にかけてくれた二人を見守っています。
大変に美しいショットですね。
さて、クライマックス
一人残された笠は東山の形見の時計を
原に渡そうとします。
時計、です。
(有名な映画評論家や研究者の解釈とは違うのかもしれませんが)
この時計の意味は、
”(原の夫~笠の次男が戦死してからもう随分経っているし)
あなたはもう自由に生きていって欲しい。今までよくしてくれて
本当に有難う。この時計で新しいあなただけの時を刻んでいってくれ”
という意味合いが込められているのではないかと。
ある種の縁切り宣言です。
(思い出にしてくれとか、忘れないでくれということではなく)
もう私たち一族の前に姿を現すことはしなくていいんだ。
それではあなたが幸せになれないと。
この映画の真骨頂~空前絶後なまでに凄いパートが
笠の言葉を受けた原のセリフと演技です。
”実は私はいつも(亡くなった)夫~あなたの息子のことを思っている
わけではない。それどころか忘れてしまっていることも多い”
ということを笠にはっきりと告げます。
つまり、笠の一族に向けた変わらぬ優しさは
ある種の”お義理”だったことを告白しているのですね。
そして顔を背けて「静かに号泣」します。
異なる世代は決して感情や居場所を共有することは出来ない、
家族の繋がりはいつしか失われていき、各人の死とともに
終焉を迎える
という監督のメッセージを全身全霊の演技で表現しています。
これもまた、神技
ですね。
最終シーン、
ゆっくりと進む船は笠そのものであり
そう遠くないうちに訪れるであろう
死出の旅の象徴なのでしょう。
私は個人的には原節子が登場する小津作品としては
”晩春”(1949年)のほうが好みなのですが
(本作はちょっと主題~テーマ先行の感じを受ける箇所があるので)
全体の完成度~緻密さにおいて
まさに監督のキャリアの頂点であることは間違いありません。
(今は叶いませんが)、小津監督の墓前に
”監督、最後の笠さん原さんのシーン、最高でした!”
とご報告するようにしたいと思います。