バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

菅井一郎と杉村春子の演技に唸る、豊田四郎監督作品 ”小島の春”

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戦後に

夫婦善哉

”猫と庄造と二人のをんな”

などの名作を送り出した

豊田監督の1940年度作品。

 

主題は

当時業病と恐れられていた

ハンセン病です。

 

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ハンセン病については多数の著書がありますが

上掲の書籍は、

療養所のなかに更に”隔離施設”が設けられたことによる

患者の受難の歴史にスポットを当てています。

 

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いのちの初夜” で知られる北條民雄

自らの罹患体験をもとに

多数の短編を残していて、川端康成からも

高い評価を受けています。


映画におけるハンセン病の描写としては

大作 ”ベン・ハー”(1959年)に登場する場面が

よく知られていますね。

 

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戦車競走のシーンが有名ですが

多分、テレビの映画劇場だと思うのですけれど

小学生の頃(1970年代中頃)に観た記憶があります。

テレビでの放映は日本語の吹き替えになっていましたが

”(私の身体は)汚れています、汚れています”

というセリフになっていたような。

半世紀近く前のことなので、はっきりとしたものではないのですが。

 

パピヨン”(1973年)にも

逃走中のスティーブ・マックイーンを匿う

患者の集落が登場します。

(食料やボートの提供を受けたマックイーンは自由への旅を続けることが可能に)

 

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これらの作品は全体のストーリーのなかで

一つのエピソードとして扱われているわけですが

”小島の春” は、真正面から患者の生活を映していきます。

 

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療養所の女医、夏川静江は

瀬戸内の島々を巡り

患者に入寮を勧めます。

 

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患者たちは

人里離れた小屋で暮らしていたり

座敷牢に閉じ込められていて

一般の日常とは隔絶された日々を送っています。

 

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現代の視点からすれば

ハンセン病への理解や患者への接し方などについては

明らかに間違っている箇所も多く

(効果があまり期待できない大風子油が写るショットもあり)

その意味では時代を感じさせる映画ではあります。

 

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この映画を単なる過去の作品とさせていないのは

夫婦役を演じる

菅井一郎と杉村春子

入魂の演技。

 

登場場面が多いわけではないのですが

観る者に強烈な印象を残します。

 

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また、

瀬戸内海の穏やかで美しい風景や

俯瞰ショットを駆使した

影技術も素晴らしく

完成度の高い一本ですね。

 

高峰秀子は ”小島の春” を観た感想を次のように述べています。

 

”私はうめいた。「これこそ演技だ!私が求めて、見たこともなかった芝居がここにあった!」<中略> それが杉村春子という女優と私との出会いであった。私は杉村春子の演技に、雷に打たれたようなショックを受けた”

(「私の渡世日記/文春文庫」より)

 

今から80年以上も前に製作された映画です。

 

しかし、

未見の方が居られましたら

機会がある折にでも

是非。