久松静児監督の1955年作品。
まずは役者陣が豪華な顔ぶれです。
森繫久彌、三國連太郎、伊藤雄之助、東野英治郎、殿山泰司、三島雅夫
主役は森繁ということになっているのですが、
幾つかのエピソードが積み重なって語られているため
多くの登場人物にセリフが割り振られていて
むしろ、森繁はそれほど目立ちません。
セリフも少ないですし。
前半部分はちょっともたついているというか
スピード感が今一つないような気もするのですが
中盤から面白くなってきまして
能天気な署長役の三島と部下の十朱が
手慣れたドタバタ演技を見せてくれます。
署内での杉村春子との丁々発止の取り調べ問答。
さすが杉村春子、無茶苦茶
芝居が上手いです。
この作品は今年亡くなった
宍戸錠のデビュー作でもあり
配役表での扱いも大きいのですが
はっきり言って、不慣れと緊張感のため
ボロボロ状態。
活舌も悪いですし、アップのシーンもほとんどありません。
監督からも相当のダメ出しを喰らっていたようです。
その辺りの事情は後に書かれた自伝
「シシド」(角川文庫)でも触れられています。
”・・・今日うまく見せ場をつくれば、先達に少しは近づけると思った。そんな軽い奢りを持った。しかし、シシドの自信は根底から崩れ、消えてなくなった。"
映画自体は好評(キネマ旬報第6位)だったので、
続編も作られたのですが、宍戸錠に出番は回ってきませんでした。
”干され”てしまったのですね。
宍戸はその後、豊頬手術に踏み切ることになります。
さてこの映画の最大の見どころは
天才子役、二木てるみ
であります。
当時まだ5,6歳のはずですが
どの大人の役者よりも芝居が達者です。
おそらく森繁も
”子供にこれだけ演られたら、もうどうにもならんよ”
と思っていたのではないでしょうか。
ただ可愛いとか、表情が豊かとか
そういう次元にとどまらず
身体のライン、動かし方で
心の内面を表現しているという
驚異的レベル。
まさに千両役者の輝き、
存在感でございます。