いや、もう
この2作品はですね。
唸るしかないんですね。
衣笠貞之助監督の
”狂った一頁” と ”十字路”
作られたのが1926年と1928年ですよ。
昭和どこじゃないですよ、まだ大正時代ですから
26年って。
両作品とも、ストーリーは暗いです。
観てですね、楽しいとか面白いということは一切ありません。
見どころはですね、表現技法~テクニックですね。
ここまでやり遂げていたのかと、一世紀近く前に。
”狂った~” は精神病棟が舞台です。
用務員を務める初老の男、患者のなかには精神のバランスを崩してしまった妻が。
(男は若い時分に家庭を顧みず、外国船の船員になって数年後に帰国という設定)
せめてもの罪滅ぼしにと、妻の世話を焼きます。
ごく稀に以前のような明るい笑顔を見せてくれる時もあるのですが、
ほとんどの時間、妻の心はこの世に無く
別の世界に行ってしまっています。
(妻から見た周囲の光景も挟み込まれていて、秀逸です)
男には一人娘が居るのですが
近く結婚を控えていて、恋人に母親の状況を知られることを
恐れています。
男はある決心を。
「娘の邪魔にならないように、妻と一緒に遠い場所へ行こう」
ある嵐の晩、妻を連れて病院を抜け出そうとするのですが
外の世界は、妻にとって恐怖以外のなにものでもなくなっていました。
取り乱す妻。
脱出に一度失敗するのですが、娘の将来を思うと・・・
男の精神状態もギリギリの状況に追い込まれていきます。
「患者たちは内面ではそれぞれ満足しているのかもしれない。隔絶されたこの病院内こそが彼等の居場所なのだ」
男は能面を買って、妻や他の患者に被せます。
最期に自らも面を付けて、妻に寄り添う男。
どうですか?私たちは幸せに見えるでしょう・・・
ドイツ映画の表現主義の影響下にあるのは勿論なのですが
単に模倣ということでない、実に完成度の高い仕上がりです。
(この作品はサイレント映画に付き物の字幕がありません。完全に映像のみで勝負しているところがまた凄いのですが)
2年後の ”十字路” は運命に翻弄される姉と弟の哀しいストーリー。
こちらは字幕が入っていますので、より観やすいかもしれません。
手許にある映画本、まったく別の著作ですが
この時期の衣笠作品の先見性を
揃って高く評価しています。
衣笠監督は戦後も映画を撮り続け、
1953年の ”地獄門” では
カンヌでグランプリ
アカデミー賞で名誉賞と衣装デザイン賞
ニューヨーク批評家協会賞で外国映画賞
と、海外で大絶賛されましたが、
まあ、こちらは海外マーケットを意識した
(こう言っては失礼ですが、売れ線狙いの)
平凡な仕上がりです。
狂った一頁 オープニングシーン
楽しくはないですよ、と念押しします。
一世紀前の日本映画の到達点を
機会がありましたら、ご覧くださいまし。