バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

上映時間が9時間半、小林正樹&仲代達矢の真剣がっぷり四つ ”人間の條件”

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撮影に足かけ4年かけた

日本映画のなかでも、もっともスケールの大きい

そして重厚な作品です。

(全6部構成、1959~1961年に3回に分けて上映)

 

仲代達矢が全身全霊を込めて~時には命の危険を感じながら

戦争に翻弄される一人の人間を演じ切ります。

如何に撮影が過酷だったかを、仲代自身が後のインタビューで

語っていますので、ちょっと拾ってみましょう。

 

”本当の軍隊の少年兵教育を実際一か月くらいやらされました”

”私も実際に殴られるしかない。それでもう顔が腫れ上がりまして”

”小林監督と私だけが足かけ四年で病気一つしたことがない。あとはみんな病気しています。戦車の下をくぐらされたり、零下で氷が張っている川に落ちたりしていましたから”

”原野を彷徨うシーンの撮影前は、小林監督からほとんどメシを食わせてもらえませんでした<中略>しかも寝てもいけないんです。<中略>そりゃあ、たちまち六キロぐらい痩せますよ”

”倒れた私が雪で全部隠れちゃうまで撮るんですけど<中略>凍死っていうのはこういう時になるもんだと思いました”

 

仲代達矢が語る日本映画黄金時代」春日太一著(PHP新書)より引用

 

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新珠三千代、仲代、小林監督、宮島義男カメラマン)

 

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仲代の妻に新珠三千代

 

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捕虜になった中国人を演じる南原伸二

 

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軍隊生活で孤立する仲代の心情を理解する古参兵の佐藤慶

 

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(仲代、川津祐介内藤武敏

 

淡島千景有馬稲子佐田啓二山村聰三島雅夫小沢栄太郎芦田伸介田中邦衛千秋実中村玉緒笠智衆岸田今日子金子信雄高峰秀子・・・

 

その他にも著名な俳優が大挙出演していますが、

オールスター映画にありがちな

薄っぺらさは微塵もありません。

 

実際の従軍経験がある小林監督の演出は

妥協や甘さを一切許さない徹底ぶりで、

仲代は「鬼の小林」と名づけていたそうです。

 

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初年兵を身体のみならず、人格まで徹底的にいびりまくる古参兵たち

(気の弱い田中邦衛は途中で自死を選びます)

 

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ロケーションは北海道のサロベツ原野で行われましたが

戦闘&群衆シーンも非常な迫力です。

 

(仮に岡本喜八監督だったらあるであろう)

ユーモラスな場面などはほぼゼロですし

登場人物の交わす会話も、個人の尊厳についてや国家論などが多く

娯楽映画としてのエンターテイメント性はありません。

 

重い重い10時間弱ですけれど

”生きているあいだに”

一度は通して、観ておきたい作品ですね。

 

(残念なのは音楽。かなり多くのシーンで鳴っているのですが、却ってその大時代な音響が興を削いでしまいます。製作年からして、しょうがないのですけれども)

 

人間の條件  予告編

www.youtube.com