バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

ある意味、全映画の頂点か~驚異の技巧が散りばめられた ”噂の娘”

 

成瀬巳喜男監督の1935年作品。

 

これは絶句モノなんですよ。

1時間にも満たない小品なんですが

驚くべき洗練の極地。

 

大スター競演とか

熱烈メロドラマとか

SFX満載とか

そういうことではなく。

 

映画は場面(ショット→シーン→シークエンス)の繋がりですが

「あの映画って、いい場面が多いよね」

といったレベルではなく

場面転換~繋ぎの部分までが

構図からセリフの意味合いまで含めて

考え尽くされてるんですね。

 

ちょっとこれだけ完璧に編集されてる映画って

私はあんまり思いつかないですね・・・

 

 

素晴らしい映像美ですね。

これだけで震えがきますが

樽から桝へ酒を注いでる仕草や

視線の行く先が

次のショットにしっかりと受け継がれていくんですね。

 

陸上のリレー競技でいえば、パスワークが上手いチーム。

絶対に失敗しないわけです。

バトンを渡す時に。

 

(姉妹役で千葉早智子梅園龍子

 

 

なんというモダニズム&カメラワーク!

(撮影は鈴木博、後に ”阿部一族” や ”おかあさん” といった傑作も撮っていますね)

昭和10年、戦前ですよ

公開されたのが。

 

 

うん?酒の味が変だな・・・

(店主が水を入れて、薄めてるんですね)

 

 

娘(千葉)もそれに気づいています。

父である店主に意を決して尋ねる

次のシーンは雨降り。

酒の水増しにリンクさせています。

 

大きな傘が、

「お父さん、まさか変なことはしてないでしょうね?」

という心の内を表しているのでしょう。

 

屋外ロケも

実に計算され尽くされた構図の連続。

 

(橋の上に梅園)

 

(橋を見上げる船上には姉)

 

梅園は姉の見合い相手といつのまにか仲良くなり

黙ってデートをしていたんですね。

両者の心中、位置関係が見事に映像化されています。

 

それ以外にも成瀬監督の十八番である

不要な説明調の排除&省略

面と向かった対立構造を回避する姿勢や視線の転換

も随所に見ることが出来ます。

 

監督、まだ二十代だったんじゃないかな

撮影当時・・・

 

 

この作品が

日本映画のベストものなどにランキングされていることは

およそ見かけたことはありませんが

(作家の小林信彦が生涯のベスト100に挙げています)

映画好きで未見の方が居られましたら

是非是非、ご鑑賞くださいませ。

 

1時間、あればいいのですから。