こちらは雑誌「ケトル」(太田出版/現在は休刊)の
松本清張特集号。
オールカラーで60頁以上の
力が入った編集ですが、
清張の熱狂的ファンである
みうらじゅんのロングインタビューが
基調になっています。
氏は推理モノではない系統の作品を
20編取り上げていますが、
見過ごされがちな渋いチョイスがちらほらと。
幾つか見ていきましょうか。
”月”(延命の負債/角川文庫収録)
僅か30頁の小品なのですが、本作は最後の1行が強烈なんですね。清張は抽象的なタイトルや出だしの数行が名人芸ですけれど、あまりに鮮やかな(そして哀しい)ジ・エンドぶりです。老いるということの残酷さがテーマですね。
”絵はがきの少女”(憎悪の依頼/新潮文庫収録)
こちらは更に短く20頁ほどの短編。想い出はいつまでもそのままのほうがよい、下手に現代に蘇らせてはいけないという教訓話。時の流れというのはいつも残酷無比・・・
”内海の輪”(1971年に映画化/監督・斎藤耕一)
清張作品で映画化されたものは多数ありますけれど、こちらはダブル不倫のねちっこい愛憎劇。主演は中尾彬と岩下志麻ですが、役柄的には岡田茉莉子がよりハマったような気もしますね。男と女の関係が遊びだけで済むはずが無いという、怖~いお話です。
”遠くからの声”(遠くからの声/講談社文庫収録)
これは哀切極まりない一篇。清張の作品のなかでも特にセンチメンタルな情感が漂ってますね。日本的でもあると同時にイタリア映画~ネオリアリズモに通じる感触もあります。舞台をイタリアに置き換えてヴィットリオ・デ・シーカが監督したら、世紀の名作になっていたのでは?
”証言”(黒い画集/新潮文庫収録)
どこにでもいる小市民が思わぬきっかけから犯人になる、されてしまう「巻き込まれ」パターンの代表作。この系統こそが清張の真骨頂ではないでしょうか。こちらも映画化されていますね。
20作、全部触れていきたいところですが
キリが無いのでこの辺で。
清張氏は生前、著作の映画化に積極的に関わったようですが
自身の監督作というのは無かったですね。
もしも実現していたら
どの作品をチョイスしたでしょうね。
史実をもとにした
ドキュメントものか
純文学の香り高い初期の作品群か
是非、観てみたかった気がします。
きっと女優陣の顔ぶれが豪華なものになったでしょうね・・・