バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

小津映画の原節子にみる家族と“非”家族の差異

 

日本最高峰の女優

原節子は戦後の小津映画に6本出演していますが

ちょっと「役柄と表情」に注目して

比べてみることにしましょうか。

(そのうちの一本は、監督が他社に赴いて撮った”出張仕事”なので今回は省略)

 

小津と原の初顔合わせが

1949年の ”晩春”

 

 

この時点で原の実年齢は29歳(設定では27歳)

しかし精神的にはかなり不安定というか

ティーンエージャーのように

むくれ顔になることも多いんですね。

実際、相当強烈な顔つきになったりします。

 

 

次作の ”麦秋” (1951年)は

お茶目で楽しいシーンも多いのですが

しかし終盤に原は感情を乱し

泣き崩れます。

 

紀子三部作のラスト

東京物語” (1953年)

は後に回しまして

やや時間が経過した

1957年の ”東京暮色” では

 

 

原は化粧っ気もなく

終始不機嫌で沈んだ表情をしています。

映画自体のストーリーも暗いのですが

年齢的にもお嬢さん役の出来ない齢になっているんですね。

 

 

(松竹での)最後の小津出演作になった

1960年の ”秋日和” では

出番も少なく、老け役といっていいほどの

地味さ加減になっています。

 

 

さて、これらの作品での原の

役柄は以下の通り。

 

父(笠智衆)の一人娘

父母(菅井一郎・東山千栄子)の長女、兄あり(笠智衆

父(笠智衆)の娘、妹あり(有馬稲子

未亡人、一人娘あり(司葉子

 

共演者に必ず誰か、血のつながった人物が居るんですね。

ですんで当事者なわけです。

お目出度いことが起きても

災難が降りかかってきても。

 

家族の問題ですから

逃げたり知らんぷりするわけにはいかない。

否応なく巻き込まれていく形になります。

 

 

ところが

東京物語” は違うんですね。

原は他の登場人物と血縁関係がありません。

ここでは香川京子がかつての原の役割をこなしています。

 

香川は怒り心頭なわけです。

「兄さんや姉さん(杉村春子山村聰ら)は冷たい!お父さんやお母さん(笠智衆東山千栄子)をないがしろにして」

といった、プンプン状態。

 

 

で、そんな香川を

「家族でない~部外者」の原が優しくなだめるんですね。

 

みんな忙しい、自分のことで精いっぱいなのよ。

 

と。

 

(原はかつて笠智/東山の長男~香川の兄と結婚していたが、夫は太平洋戦争中に戦死。子供も居ないというシチュエーション&現在はアパートで独り暮らし)

 

だから距離を置けるんですね

笠の家族になにが起きても。

言い方が変かもしれませんが

”余裕” があります。

 

他の作品にあるような

時に般若のようにも見えるシリアスな表情が

出てこないんですね。

物腰も終始、穏やかで上品です。

 

 

この作品にも終盤

原が涙を見せる場面が出ては来るのですが

それはエモーショナルというよりも

傍観~生きていくうえでの定め的な感覚が漂っています。

 

(原が笠にはっきりと私たちはもう他人です、といった意味合いの言葉を告げるシーンもあります)

 

小津監督の特徴である

狭い距離感での

面と向かった対立の構図から

”非”家族である原が外れているために

ストーリーに動きがあって

ドラマ性が強調されているとも言えますね。

 

この辺りに

本作が海外で非常に評価が高い

(ベストの小津映画に推されることが多い)

理由のひとつがあるのかも、ですね

 

東京物語”(原節子香川京子のシークエンス)

www.youtube.com