うーん、どうかなあ
ちょっとなあ・・・
アルフレッド・ヒッチコックの ”バルカン超特急”(1938年)
のワンシーンなんですが。
この作品はですね、映画史に残る傑作という評価が定着してるんですね。
ランキングものには必ず上位で登場しますし
評論家&一般の映画ファン双方から
長年、支持され続けています。
私の手許にある映画本でも
もう絶賛の嵐です。
「ただもう、面白い、面白い」 小林信彦
「スリル、サスペンス、ユーモアが濃縮された<ヒッチ・タッチ>が至るところで輝いている」 双葉十三郎
・・・うーん、とまた唸ってしまうのですが・・・
私はよく映画の話してますとね、
あなたいったい、お幾つ?
とか言われるんですね、相手の方に。
つまり古い映画がやけに好きでなんですね~とのお言葉。
まあ、小学生の頃から”若年寄”というあだ名でしたんで、
確かにサイレント時代の映画のほうが
最新封切りの新作よりも好きなことが多いのは確かですね。
しかしそういう ”爺様視点” から観たとしても
ちょっとね、諸手を挙げて
この映画最高!とは言えないような・・・
(ヒッチ先生、済みません)
ヨーロッパの架空の国のお話なんですね。
豪雪に閉じ込められてしまった主人公(マーガレット・ロックウッド/マイケル・レッドグレイヴ)をはじめ登場人物たちは、小さな宿屋で立ち往生。
マーガレットの隣室には
家庭教師をしているという年配の婦人(メイ・ウィッティ)が。
しかし、室内での夫人の行動には
ちょっと風変わりな様子が。
翌朝、動き出した列車に乗るために駅のホームへ。
頭上から植木鉢が老婦人めがけて落ちてきますが
婦人に駆け寄ったマーガレットを直撃、以降
彼女は眩暈に悩まされることになり、短時間
意識を失ってしまうようになります。
電車のコンパートメントで真向いの席に座った
マーガレットと老婦人。
しかし、マーガレットが意識を失っているあいだに
老婦人は忽然と姿を消してしまいます。
他の乗客に聞いても
「そんな人は最初から居ませんよ。あなたの頭の具合の問題では?」
と相手にされません。
マーガレットは彼女の言葉を信じてくれるマイケルとともに
車内で婦人の行方を捜すのですが・・・
というのが前半~中盤までのストーリー。
こう書きますと、非常にサスペンス色が強く
シリアスな場面が続くのかな、と思いません?
邦題がまた、”超特急” なんて付いてますから。
しかしそれとは裏腹に、コメディタッチなんですね。
特に宿屋のシーンなどは。
柱にゴツーン・・・無茶苦茶ベタですがな。
そもそも、もとのタイトルは ”THE LADY VANISHES”
まあ、”その女、何処へ” みたいな意味合いでしょう。
乗っている列車も蒸気機関車ですし。
あと、ミニチュア合成のシーンが多用されていて
どちらかというと可愛い~童話でも始まるのかしらみたいな
気持ちになってしまうんですね。
アクションシーンも若干はあるのですが
手に汗握る、というような迫力はありません。
クライマックスは、一癖も二癖もある乗客たちが協力して
”敵” に立ち向かい、危機を脱します。
このシーンもいかにものセットで、かつスピード感も無いんですね。
非常に近い距離で撃ちあっている設定なんですが
割と平気なんですね、弾丸が近くに当たっても・・・
そして最後には
マーガレットとマイケルは愛し合うようになるのですが
マーガレットには別に婚約者が居るんですね。
(彼女の到着を待って駅まで迎えに来ている)
しかし、マーガレットは完全にそれを無視して
マイケルとともにタクシーに乗り込んで
ハイ、サヨウナラ。
おいおい、それはちょっとないだろうと(苦笑)
・・・
思うにこの映画、観る側にあるハードルが課せられてますね、
楽しむためには。
当時のヨーロッパは各国それぞれ、
第二次大戦前夜の緊迫した状況下にあるわけです。
映画の登場人物たちも様々な国籍なんですが、
言語の相違(あの~、何言ってるんですか?など)
ちょっとした仕草のひとつひとつ(あいつは〇〇国生まれに違いないね、など)
この辺りの事情に通じているかという。
セリフのなかに頻繁に~しかも直接的な表現だけでなく婉曲な言い回しで
出てきますから、それ(お国柄や文化の相違)が分かると分からないでは
受ける感想は随分と違ったものになってしまうだろうと。
で、あまり良く分からないということになると
どうしても視覚的なパートだけに注目することになって
「なんだよ、これ。どこが一体名作なんだよ?」
と、なってしまうんですよね。
あと日本語のタイトルも
”すっとこどっこい 列車のなかはてんやわんや”
とかにしたほうが、落差が無くて良かったんじゃないでしょうかねえ。
ちなみに私は話の本筋にはまったく関係のない
チョイ役、宿屋のメードさんが
一番、印象に残りましたね。
英語が出来ないという設定なので
セリフもほんの少しなんですが
ずーっとニコニコ笑顔なんです。
Kathleen Tremaine という人ですが
この作品とあと1本だけしか映画には出ていませんね。
うーん、この人をメインにして
なにかスピンオフを作って欲しかったなあ、
なんて。
The Lady Vanishes Trailer