小津監督の1942年度作品。
小津映画の常連、笠智衆の初主演作でもあります。
(女優さんはほぼ登場しません)
監督にもその演技を褒められ
世間の評判も良く(キネマ旬報第二位)
笠にとっては想い出深い作品なのでしょう。
いくつかある自叙伝で
頁を割いて触れられています。
内容は妻を亡くした笠と
一人息子の佐野周二との
父子愛情物語。
二人のあいだには対立、反発といった構図はまったく無く
驚くほどの仲の良さです。
ですので特に盛り上がるような展開も皆無で
ラストに至るまで淡々とした進行。
画面に出てくるのは二人以外も
男優ばかりなので
実に地味な印象があります。
見どころは
凝りに凝った構図の乱れ打ちで
冒頭からどんどん繰り出されます。
狙ってますね~
やってますね~
盟友の清水宏タッチが感じられるシーンが
多いような気がしますね。
佐野周二の少年時代は
子役が演じているのですが
同じ場面をリピートさせています。
父子が仕事や学校の関係で
離れ離れで暮すことになり
少年時代の佐野は
笠に背を向け
そっと涙を拭います。
佐野が成人後
笠とやっと一緒に暮らせるようになった時には
人生の別れが迫っていたのでした。
佐野は病院の片隅で
少年時代と同じく
一人落涙します。
時が流れても
いつまでも父と子に流れる愛情は
不変ということですね。
まさに名人芸の87分間であります。
参考図書