バンコクマインド

タイの過去現在未来と音楽映画書籍の旅

八十年前の日本のシングルファーザー奮闘記 ”父ありき”

 

小津監督の1942年度作品。

小津映画の常連、笠智衆の初主演作でもあります。

(女優さんはほぼ登場しません)

 

監督にもその演技を褒められ

世間の評判も良く(キネマ旬報第二位)

笠にとっては想い出深い作品なのでしょう。

いくつかある自叙伝で

頁を割いて触れられています。

 

 

内容は妻を亡くした笠と

一人息子の佐野周二との

父子愛情物語。

 

二人のあいだには対立、反発といった構図はまったく無く

驚くほどの仲の良さです。

ですので特に盛り上がるような展開も皆無で

ラストに至るまで淡々とした進行。

 

画面に出てくるのは二人以外も

男優ばかりなので

実に地味な印象があります。

 

 

見どころは

凝りに凝った構図の乱れ打ちで

冒頭からどんどん繰り出されます。

 

 

狙ってますね~

 

 

やってますね~

 

 

盟友の清水宏タッチが感じられるシーンが

多いような気がしますね。

 

 

佐野周二の少年時代は

子役が演じているのですが

同じ場面をリピートさせています。

 

 

父子が仕事や学校の関係で

離れ離れで暮すことになり

少年時代の佐野は

笠に背を向け

そっと涙を拭います。

 

 

佐野が成人後

笠とやっと一緒に暮らせるようになった時には

人生の別れが迫っていたのでした。

佐野は病院の片隅で

少年時代と同じく

一人落涙します。

 

時が流れても

いつまでも父と子に流れる愛情は

不変ということですね。

 

まさに名人芸の87分間であります。

 

参考図書

「俳優になろうか」笠智衆著・朝日文庫

小津安二郎先生の思い出」笠智衆著・朝日文庫